ブルガリアは石炭火力発電を2038年まで延長

脱炭素化に向かって邁進する欧州連合(EU)は、温室効果ガスを多く排出するとして、石炭火力発電の廃止を声高に主張している。

そのEUで、石炭火力発電の延命を模索する国が出てきた。それは南東欧の小国、ブルガリアである。同国の人口は700万足らず、一人当たりの所得水準も11400ユーロ(180万円)程度と、EUの最貧国の1つだ。

ブルガリアのニコライ・デンコフ首相(左側)と握手するウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(=2023年6月28日)
出典=欧州連合
ブルガリアのニコライ・デンコフ首相(左側)と握手するウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(=2023年6月28日)

南東欧諸国のニュースサイトであるSeeNewsなどが報じたところによれば、ブルガリアのニコライ・デンコフ首相が率いる連立政権は、国内の石炭火力発電所の運転期間を2038年まで延長すると決定した模様だ。従来、ブルガリア政府は2038年までに石炭火力発電を段階的に廃止する方針だったが、それを撤回したことになる。

さらにデンコフ政権は、石炭火力発電の廃止の期限を明示せず、2038年以降もその利用を継続する余地を残した。ブルガリア政府は9月28日、鉱業地帯などの脱炭素化を支援するために設けられた「公正な移行基金」から資金の配分を受けるための計画書をEUに対して提出したが、そこにも廃止の期限は明記されなかったようだ。

脱炭素を推し進めるEUは容認できるのか

注目されるのがEUの対応である。EUの執行部局である欧州委員会が年内にブルガリアの計画を承認すれば、ブルガリアは「公正な移行基金」から、対象となっている国内の3州の脱炭素化を促すための資金を得ることができる。

それ以上に注目されるのが、ブルガリアによる脱炭素化戦略の修正を、欧州委員会が容認するかどうかという点だ。

EUは英国とともに、脱炭素化の旗手として石炭火力発電の早期廃止を世界に呼び掛けた経緯がある。石炭火力は依然として重要な電源である途上国にも、EUはその早期廃止を国際公約にさせようとした。

にもかかわらず、そのEUの構成国であるブルガリアが石炭火力の早期廃止目標を後退させることを、欧州委員会が容認できるのだろうか。

労働者の反発を無視できないデンコフ政権

ブルガリア政府が石炭火力の延長に踏み切った最大の理由は、石炭火力の廃止で失業する労働者の反発を受けたためである。

そもそもブルガリア政府は、3つの炭鉱と石炭火力発電所の閉鎖で失業する労働者に対して最大15万レバ(約1200万円)の給付金を支給するとともに、産業転換のための国有企業を設立する予定だったという。

しかし、こうした政府の方針に反発する鉱山労働者や電力労働者たちが、9月末に高速道路や幹線道路を封鎖するといった抗議活動に打って出た。