イワナ個体数を激減させた90年代のダム建設

リニアトンネルが貫通する南アルプスの大井川源流部には、東俣ダム、西俣ダムが1995年に建設された。

2つのダムは、現在、議論になっている田代ダムよりもさらに上流部に位置して、2つのダムの水は、中部電力の二軒小屋発電所で使われている。

筆者撮影
ヤマトイワナの個体数激減の大きな原因となった東俣ダム、西俣ダムの水を使う二軒小屋発電所(静岡市)

30年以上前、東俣、西俣のダム計画に当たって、現在のような自然環境保全は重要視されなかった。

大井川源流部のヤマトイワナを調査研究した専門家は「西俣ダムが建設された当時、渇水期にダムからの水が切れてしまい、イワナが大量死していた」とヤマトイワナ減少の原因をダムの影響だと指摘した。

また、ヤマトイワナの宝庫とされる赤石沢でも2つのダムが建設された。

地元の静岡市井川地区で生まれ育ち、ヤマトイワナの生態研究を続けてきた元役場職員の岡本初生さんは「赤石沢のダム建設のために道路建設が行われ、大量の工事車両が入り、大量の土砂が流れ出した。その結果、周辺のイワナはほぼ全滅した。もし、イワナを守るのであれば、もともと崩壊しやすい南アルプス源流部にダムを施工すること自体誤りだった」と述べた。

当然、静岡県もダム建設におけるイワナへの影響を承知していた

ヤマトイワナのための「水量増加」を求めなかった

東俣ダム、西俣ダムからの水を導水路を使って発電する二軒小屋発電所は、2019年3月末で水利権使用許可権限が切れた。期限切れを踏まえ更新申請した中部電力への許可はすぐに下りなかった。

2020年11月になって、ようやく国は、河川法に基づく知事意見を静岡県に求めた。

東俣ダム下流の河川維持流量は毎秒0.11m3、西俣ダムは0.12m3しかない。もともと、自然環境保全を想定しなかった河川維持流量であり、水生生物にはギリギリの水量と言える。

ダムからの河川維持流量を少しでも増やすことができれば、水生生物の生活環境を好転できる。そうなれば、ヤマトイワナの保全にもつながるのだ。

しかし、知事意見を求められた川勝知事は、この水利権更新に当たって、国へ河川維持流量の増加を求めることをしなかった。リニア工事で自然環境の保全をあれだけ訴えているのとは真逆の対応である。

水利権更新の担当は県自然保護課ではなく、県河川砂防管理課である。もともとヤマトイワナは漁業対象種であり、保護保全対象にはなっていない。だから、「ヤマトイワナを守るために水量を増やせ」という知事意見を出せるはずもなかった。

リニア問題の会議ではJR東海に「ヤマトイワナを守れ」と強く求めるが、実際には県は何らの対応もしないどころか、本音は「ヤマトイワナを食べよう」である。