別のイワナ放流でヤマトイワナが壊滅
ヤマトイワナの減少は大井川上流部にある多数のダムによる影響だけではない。
大井川流域にある井川漁協は1970年代後半から、渓流釣り人を誘致するため、県水産課の補助金と指導で、養殖した大量のニッコウイワナを大井川上流部に放流した。
繁殖力の強いニッコウイワナは大井川で瞬く間に増えた。ニッコウイワナとヤマトイワナの交雑も進み、純粋のヤマトイワナはすみかを追われた。
井川漁協は2002年から、ヤマトイワナの養殖にも乗り出した。翌年には16万粒の受精卵を放流したが、結局、ヤマトイワナ養殖は非常に難しいことがわかり、事業を断念した。
つまり、大井川の主役となったニッコウイワナの繁殖力に勝てないのであり、ヤマトイワナを復活させるハードルは非常に高い。
リニア工事の影響を受けない流域にはヤマトイワナが生息している。川根本町の光岳周辺の「大井川原生自然環境保全地域」約11ヘクタールは、ヤマトイワナの聖域とされる。ただし、厳重な立入禁止区域であり、登山道などもなく、渓流釣りを含めて一般の人が入り込むことなどできない。
このような状況の中でもJR東海は県専門部会でヤマトイワナの「サンクチュアリー(保護区)」を設けることなどを提案し、川勝知事の「クレーム」に何とか対応しようとしている。
すべての事情を勘案すれば、結論はそこにしかなかった。
専門部会でヤマトイワナを取り上げるのであれば、そもそもなぜヤマトイワナが大井川上流部からいなくなったのかを最初に整理すべきだった。そうすれば県の責任がいかに大きいかがわかっただろう。
妨害目的だけの意見書を5回も送り付ける静岡県
ところが、県専門部会は2022年3月になって、それまでの5委員に新たに4委員を加え、ヤマトイワナの議論を無理やり広げて、沢の水生生物など普通種などすべての保全を求める議論を始めた。
板井部会長は議論をまとめるのではなく、川勝知事のリニア妨害のシナリオに沿った会議運営に終始している。
新委員を加えた、10月20日までの3回の会議は、すべて国の有識者会議へどう対応するかが議題となった。
その結果、県はほぼ同じ内容の意見書をこれまで5回も国に送っている。
9月22日付意見書には突然、「鷲谷いづみ東大名誉教授」名の助言書類が添付された。県専門部会とは全く無関係である。
今回の意見書にも、鷲谷氏の助言のみが記されている。
そこには「工事の影響が及ぶ環境に生息・生育を依存している生物種のうち指標となる環境変化への脆弱性が高い絶滅危惧種や希少種など『環境保全上の重要種』として選択し、影響を事前に予測するべきである」という漠然とした内容しかなかった。
これでは鷲谷氏が県専門部会のヤマトイワナの議論を承知していないことがはっきりとわかる。大井川の事情を全く知らない、筋違いの助言でしかない。
どうして、県専門部会委員でもなく、いままで一度も会議に出席していない鷲谷氏の助言を、県は意見書に使ったのかをひと言も説明していない。
今回の意見書内容はデタラメである。
つまり、10月10日の川勝知事の会見と同様に、リニア妨害のデタラメだけが見えるお粗末な内容である。