第二に、非常に高い目標を掲げていること。「世の中にない日本刀をつくってやる」と断言し、敢然と立ち向かっていく。

第三は、目標に向かって進んでいく向上心、執念、情熱、しつこさだ。

第四は、甲冑から刀へと時代の変化を見極め、大きく舵を切る柔軟さ。その一方で、将軍家お抱え刀鍛冶の誘いを断るなど職人としての意地は捨てていない。時代に柔軟に合わせながらも、自分の思い通りに最高のものをつくりたいという軸はブレていないのだ。

『いっしん虎徹』
山本兼一著/初版2007年/文藝春秋刊

こうした虎徹の生き方に、私は「不易流行」の精神を学んだ。変えるべきは変え、変えるべきでないところは変えない。まさに私が目指す経営と相通じる。社長就任後、現場を精力的に回っているが、神戸製鋼グループの現場にも、虎徹のように「極める」姿勢を大切にする技術者が大勢いる。機械加工を極めた虎徹もいれば、溶接を極めた虎徹もいる。

不易流行で、変えてはいけないのは、この「極める」姿勢だろう。原料は時代や価格の変動によって変わってもいいが、材料を加工して製品に仕上げるところは、不易なのだ。

私は「ものづくり推進部」を新設し、現場の「虎徹」たちに光を当て、埋もれさせない仕組みづくりを進めている。わが社の「虎徹」たちの技をグループ内で共有するのが目的だ。

「虎徹」たちが現場で率先して指南役を務めれば、職場は活性化する。経営的にも、歩留まりや生産性の向上、在庫の削減につながるだろう。

虎徹の刀は、その優れた切れ味から「血に飢えている」と評されたこともある。神戸製鋼が飢えているのは、次世代を切り拓くオンリーワンの製品だ。必ずや現場の「虎徹」たちが応えてくれると思う。

※すべて雑誌掲載当時

(斉藤栄一郎=構成 芳地博之=撮影)
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