困難さが増す人材の確保と、進まない労働生産性の向上

先日、2015年10月に実施した簡易国勢調査の速報値が、2010年の前回調査との比較でおよそ94万7000人(0.7%)減り、調査開始以降初めて減少したとセンセーショナルに報じられた。高齢化も進んでいるうえに、すでに日本の労働力人口や消費人口は減少に転じている。先行きの見通しは企業にとって非常に厳しく、これまでと同じやり方では事業を伸ばしていくどころか維持することも困難である。人口減の経営への中長期的な影響をさておいても、中小企業をはじめとして必要な人材の確保が難しくなりつつあるのが現在の状況だ。


出典:公益財団法人日本生産性本部「日本の生産性の動向2015年版」

もちろん、こうした状況の到来はかなり以前から予想されており、対策として長年叫ばれてきたのが「生産性の向上」だ。人が増えないのであれば、今いる労働力で生産性を高めるしかないわけだが、日本生産性本部がまとめた『日本の生産性の動向2015年版』によると、日本の労働生産性の向上は進んでいない。主要先進7カ国の実質労働生産性上昇率推移などを見ても、2010~2014年平均は0.5%であり、フランス、カナダ、ドイツ、米国に次ぐ5位にとどまっている。最下位だった1990年代よりましとはいえ、他国より人口問題が顕在化している分、よりドラスティックな改善が求められている。


出典:公益財団法人日本生産性本部「日本の生産性の動向2015年版」

システム開発から運用、テクニカルサポート、コンサルティング事業を展開するインテリジェンス ビジネスソリューションズで、自ら立ち上げたワークスタイル変革事業のディレクターを務め、多くの事例を目の当たりにした家田佳代子氏にワークスタイル変革の重要性と成功のポイントについて尋ねた。

家田氏はかつて母親の介護のために離職し、その後、別の企業で介護をしながらテレワークで業務をこなした経験を持つ。女性を支援する会社を設立して社長兼CEOを務め、2014年にインテリジェンス ビジネスソリューションズに加わった。3月末まで、総務省事業である「新たなワークスタイルの実現に資するテレワークモデル」の実証実験を、NTTデータ経営研究所と共同で実施中という。

いまこそ中小企業がワークスタイル変革に取り組むチャンス

家田氏は、中小企業にとってワークスタイル変革はすぐに取り組むべき課題であり、またその好機だと話す。安倍内閣が掲げる「一億総活躍社会」では、介護離職ゼロ、育児世代の保育需要に対して4年後の2020年に50万人分の保育園を作ると言っているが、このとき25~44歳の就業率を5%引き上げるという施策もあり、実は100万人分の保育需要が発生するため、その差50万人分の母親は新しく待機児童を抱える可能性を持つことになる。

また、2020年以降は団塊の世代が70代に入って介護が必要になるが、そのとき団塊ジュニア世代は部長から経営陣になる時期と重なる。介護のために現場から離れなくてはならなくなったとき、大手企業であればなんとか対応できるが、中小企業では1人がいなくなるといきなり仕事が回らなくなってしまうため、より切実な問題となる。

一方、中小企業にとって好機と言える理由は、いま、国からの厚いサポートが得られることだ。例えばワークスタイル変革のためのコンサルティング費用は全額助成され、在宅勤務やテレワークに必要な機器の購入にも助成金が出る。来年度4月1日になれば「女性活躍加速化助成金」も利用できる。さらに、生産性向上のための設備投資に対する税制優遇や、子育て支援をする企業に対する税制優遇もある。いまは、ワークスタイル変革に取り組み、戦略的に投資をするのに有利な条件がそろっているのだ。