それでも全体の4分の1が過労を経験

こうした運動を経て、過去100年間に労働時間は大きく短縮されてきた。しかし、現在の1日8時間労働は1917年、週40時間労働は1966年以降のものであり、長きにわたって変わっていないことになる。

90年代には、いくつかの企業と自治体で1日6時間労働の実験がなされた。労働時間短縮は労働者が集中して仕事をするので効率性が高まること、アイドリングが減ること、ストレスを減らし疲労回復が早まることがわかった。

生産性も上がるので給料を下げる必要はない。しかし、反対意見もあったことなどから定着しなかった。

こうした文脈で、最近のマリン首相の提言は90年代の議論の再開と見ることもできる。欧州連合の中でもフィンランドの労働時間はすでに短いので、マリン首相の発言は、国際的な競争力と生産性向上を重視する立場から批判された。

また、マリン首相の考えは、2016年に発効した競争力協定と衝突するものでもある。競争力協定は、マリン内閣の前のユハ・シピラ内閣(2015〜2019年)が結んだものだ。

新自由主義的で保守的な路線のシピラ内閣による競争力協定は、フィンランドの経済的競争力の増強を目的とするもので、部門を超えて労働時間延長、賃金凍結、夏の休暇手当削減などを含んでいた。

ただし、フィンランドでは長時間労働に対する忌避感が強い。当初の案で、労働時間延長は1日30分とされていたが、交渉の結果週に30分に短縮された。延長とは呼べないような短さである。

労働時間短縮は、フィンランドだけの志向ではなく、2021年にはアイスランドでのケースが報道されており、より広く北欧の志向といえるかもしれない。

しかし、そうした政策をとるフィンランドにも仕事のストレスや過労はある。2019年の労働衛生研究所の報告によると、女性の17%、男性の14%が精神的な重圧を経験、全体の4分の1が過労を経験したという。

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できるだけ働きたくない、わけではない

休暇と余暇も、労働と同様大切にされる。年休は、最初3〜4週間で始まることが多いが、その日数は勤務期間に応じて長くなり、2カ月以上の夏休みを過ごす人もいる。

学校の夏休みは2カ月半。それに加えて、学校には秋休みと2月のスキー休みが1週間ずつあるので、子どもと旅行を楽しむ人も多い。

休むことは、時間だけではなく空間の側面も持つ。日常から離れてサマーハウスやヨットで過ごす、海外旅行するなどが普通だ。

サマーハウスやヨットを持つのはお金持ちというわけではなく、普通の人も持っている。ヨットには居室や寝室、キッチン、トイレなどがあって寝泊まりできる。

労働者階級にもサマーハウスを持てるようにしたのが、英語でアロットメントと呼ばれるシステムだ。フィンランドに導入されたのは1910年代。

中心から少し離れた都市部の一画や島の250〜500平米程の土地に小さな建物が一軒建てられていて、庭に花壇や菜園を作って楽しむ。

1990年代になると、それが再発見されて人気になった。土地は自治体が所有し、年ごとの契約で借りる場合と購入する場合がある。