世界の幸福度ランキングで5年連続1位のフィンランドの働き方はどうなっているか。ヘルシンキ大学非常勤教授の岩竹美加子さんは「高い地位に執着する日本とは真逆だ。『フィンランドで最も影響力のある女性』に選ばれた組織のトップを務めていた女性は、リタイア後には若いときから興味を持っていたチベット仏教に傾倒した」という――。

※本稿は、岩竹美加子『フィンランドはなぜ「世界一幸せな国」になったのか』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

夏のフィンランド・ヘルシンキの旧市街にある桟橋
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「個人事業主の医者」という働き方

フィンランドでは美容院で働く美容師、私立のクリニックや病院で働く医師や歯科医は、雇用関係ではなく個人事業主として働いていることが多い。

美容師は、自分が担当した顧客が払う料金を直接顧客から得る。店の賃貸費、電気代、水道代などの経費を分担して、経営者に払うシステムだ。

1917年に設立された「フィンランド頭髪事業主」という同業者組織があり、美容師はそうした組織の会員になって労働者として雇用上の権利を守っている。

フィンランドは国民皆保険制度で、医療機関には公立と私立がある。

公立の健康センターや病院に勤務する医師は、個人事業者ではなく雇用関係にあるが、私立の場合は個人事業主として勤務していることが多い。特に総合医療医師ではなく専門医で多く、その約65%は私立のクリニックや病院に勤務しているといわれる。

特に多いのは眼科医の85%、耳鼻咽喉科、産婦人科の80%など。日本では自宅での開業医が多いが、フィンランドにはほとんどなく、かかりつけの医者というシステムはない。個人事業主として開業するのではなく、私立病院で個人事業主として勤務するのが普通だ。

医師のためには医師組合があり、労働上の諸権利を守っている。

こうした個人事業主としての働き方には、英語圏との違いがある。ケン・ローチ監督の映画『家族を想うとき』(2019年)は、ギグ・エコノミーで働く白人の配達ドライバー一家を描いて話題になった。ギグ・エコノミーは、被雇用者としてではなく個人事業主として単発で仕事を請け負う働き方だ。