「人工的な人」「自然人」という概念
また、2020年5月にアメリカ・カリフォルニア州がライドシェアの大手であるウーバーテクノロジーズ社とリフト社を提訴したことが報じられた。両社ともに、ギグワーカーの運転手を使っている。
「本来は雇用関係にあり従業員として扱うべき労働者を独立した個人事業主に分類することで、最低賃金の保障や残業代の支払い、失業保険、有給の病気休暇などの負担を回避しようと」していることを違法としての提訴だった(※1)。
「基本的な労働者保護」「ヘルスケアやその他の便益」などの労働者の権利保障は、フィンランドが常に配慮していることであり、個人事業主に分類することで回避されるものではない。
アメリカでは労働組合が弱く、国民皆保険制度がなく、医療費が非常に高く、お金がないので医者にかかれない人も多い。
フィンランドで個人事業主は、必ずしも社会的弱者とみなされていない。個人事業主の事業は、特許登録庁に登録されビジネスIDを得て法人になる。
法人は、会社や自治体、市民組織など「人工的」な人。それは、血と肉を持つ人間である「自然人」と対比され、どちらもさまざまな権利と義務を持つ。
法人は、さらに公的と私的なものの2つに分けられる。
前者は国家、地方自治体、教会の教区など、後者は会社や個人事業主の事業、協同組合、市民団体、財団などになる。そうした位置づけをされ、法人としての権利と義務を持つので、個人事業主に分類されることで奪われる権利はない。
「フィンランドの個人事業者」という同業者同盟があり、事業をやめた場合の失業保険や年金などの制度も持っている。
フィンランドではワークライフバランスの良さが重視されるので、より平等で柔軟な働き方や、多様な家族のあり方を目指す先に選択肢の1つとして個人事業主がある。世界経済の行方が不透明な現在、小中学校では起業も奨励している。
もちろん、現在の世界で新自由主義から逃れることはむずかしいが、労働に関する制度は英語圏とはとても異なる。
女性のキャリア推進を肯定的に
日本では、主婦がパートで働くのは一般的だ。1985年に国民年金の「第3号被保険者制度」が作られ、それまでの第1号(自営業者や学生)と第2号(会社員や公務員)に追加された。
第3号は、第2号保険者に扶養されている配偶者のための年金制度で、年間収入が103万円以下、または150万円以下などの場合、保険料を払わなくても年金を受給できるようになった。
非正規の低賃金労働に従事することによって、夫の扶養で生きることが公的な制度になったのだ。
フィンランドでは、従来パートタイムという働き方はメジャーではなかった。レストランやバーなどの飲食業、大学や教育機関の非常勤講師などにパートタイムの働き方はある。また病気の場合、時間を短縮して働くこともある。
しかし、フルタイムで働くか、まったく働かないかのどちらかが労働のモデルになってきており、パートタイムという働き方は働く側の権利が弱く、ウェルビーイングを考えた仕事の形態ではないととらえられていた。
しかし、最近は育児休暇中、勤務時間を減らしパートタイムにすることによって、育児負担を平等化し、より良いワークライフバランスと女性のキャリアを進めることは肯定的にとらえられるようになってきている。