「風俗街へのサプライチェーンに成り果てた」
人口増加に経済成長にと、インドは国際社会のなかでも日増しに存在感を高めている。しかし、根深い南北格差に加え、カースト制やデーヴァダーシーの習わしなど、過去の遺産から脱却できていないのが現状だ。
デーヴァダーシーの風習は、バンガロールが位置する南部カルナータカ州を中心にいまも色濃く残る。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズは昨年12月、21歳の娘をデーヴァダーシーに出した両親が逮捕されたと報じている。
事態を察した村人たちが女性・児童福祉開発局などに通報し、警察が捜査に乗り出したことで逮捕に至った。両親は、病気を繰り返す娘が神の呪いにかかっていると考え、ヒンドゥー教寺院に捧げたのだと説明している。
同紙は「ショッキングな事件」だとしているが、決して例外的な事象ではない。AFP通信によるとインド人権委員会は昨年、同州だけで7万人のデーヴァダーシーが現存すると発表している。
ジェンダー問題の専門家であるアーシャ・ラメシュ氏は、インドNPOメディアのワイヤーに寄稿し、制度は「風俗街へのサプライチェーンに成り果てた」と指摘する。
娘を寺院に差し出す親、静観する村人…
インド政府はデーヴァダーシーの慣習を違法としているが、農村部には罪の意識なく子を差し出す親や、それを静観する村人たちがまだまだ多い。悪習に疑問の目を向けることはなく、カーストの下層に位置するとされるデーヴァダーシーの人々をただただ蔑むことが多いようだ。
希望もある。ラメシュ氏は、ある少女の取り組みを紹介している。ラダという名のこの少女は、デーヴァダーシーの制度がもたらす害悪に気づき、人々の意識を変える草の根運動を始めたという。
徐々に村人たちの理解を得られるようになったほか、児童保護団体などへの通報を通じ、実際にデーヴァダーシーになることを逃れた事例も出ているという。
インド政府は元デーヴァダーシーの人々に対し、わずかながら経済的支援を行っている。デーヴァダーシー行きを逃れた少女たちに対しても、同様の支援が求められるだろう。
人生を救うはずだった寺院に、人生を奪われた少女たち。その生き方を次の世代へ送らずに済むよう、7万人のデーヴァダーシーたちが悪習の根絶を待ちわびている。