海外でのネット配信の大反響

――たしかに、ナイーブな子たちには救いになったかもしれませんね。自分と同じことで悩んでいる人がいると知って、ちょっとホッとする。そういう慰めが物語の効用だったりもしますからね。

【鈴木】でも、ぼくはあるとき驚かされるんです。映画祭やキャンペーンで海外に行ったら、突如、大勢の“オタク”が登場するようになったんです。最初は「どうなっちゃってるんだろう⁉」と思った。

――そういう若き外国のオタクたちがジブリ作品に夢中になっている。それがここ十数年の状況ですよね。

【鈴木】いまやそれがもう一般の人たちにも広がっているんです。たとえば、アリアナ・グランデという歌手が「私の人生を支えてくれたのは『千尋』ですと言ったりしてね。ぼくはよく知らないけれど、アメリカのスターなんでしょう? そういうところまで行っちゃったんですよ。

まだ自分のなかでも整理できていないことを思いつくままにしゃべっちゃうと、最近びっくりしたのがNetflix(米国はHBO Max)。一昨年から契約して、海外でジブリ作品の配信を始めたんですけど、とんでもないことが起きちゃったんですよ。世界中でものすごい数の人が見ているんです。もうNetflixの人たちもびっくりなんですよ。「自分たちの想像を上回った」と言って。それをあのおじさんがやったんですからね。

――おじさん?

【鈴木】宮﨑駿ですよ(笑)。まあ、ぼくも加担したんですけどね。

――いろいろな人たちが神輿を担いでがんばったわけですよね。鈴木さんを筆頭に、アニメーター、スタッフ、製作委員会の人たち……。

【鈴木】そうです。でも、中心にいる本人はまったく自覚がないですよね。世界で何が起きているか知らないし、興味もないから。

でも、それもこれも、もとを辿れば戦後の漫画から始まったわけでしょう。それがアニメになって、ジブリで映画をつくっているうちに、とんでもないことが起きちゃった。いったい、宮さんとぼくは何をやってきたのか……。

手渡されていく「通俗文化のバトン」

――アカデミー賞とかNetflixの世界配信につながるルーツは『少年画報』にあった。そう考えると大衆文化のつながりっておもしろいですね。

【鈴木】そのまた根っこにあるのは敗戦ですよ。

――敗戦のショックが日本独自の子ども向け漫画を生みだして、それに影響を受けた宮﨑さんがつくった映画が、今度は世界中の人に影響を与えている。

鈴木敏夫『読書道楽』(筑摩書房)

【鈴木】こういう話って、本来は研究に値しますよね。一概にマンガ・アニメブームと言っているけど、そのルーツとか関係性について、詳しく研究した人はまだいないんじゃないかな。

――日本の漫画とはいったい何だったのか。パンドラの蓋を開けてしまったのか? 鈴木さんがよく言う“ジブリの功罪”ともつながる話ですね。

【鈴木】本当はそれを解き明かさなきゃいけないわけでしょう。宮さんのことだけじゃなく、宮さんに辿り着くまでの日本文化の歴史を。

――そうですね。漫画の前には絵物語があり、宮﨑さんも鈴木さんも影響を受けた江戸川乱歩があり、宮﨑さんが言うところの「通俗文化のバトン」はずっと手渡され続けてここまできたんでしょうから。

(聞き手・構成=柳橋閑)
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