宮﨑駿の中に息づく少年漫画誌
――『赤胴鈴之助』って、後にアニメ化されたとき、宮﨑駿さんも一部演出していますよね。
【鈴木】そうなんだけど、宮さんはときどきぼくのことを馬鹿にして言うんですよ。「どうせ鈴木さんたちは『赤胴鈴之助』なんかが好きだったんだろう。あんなくだらないものを読んで」って。
「おれは違うぞ」と言いたいわけだけど、8歳下のぼくらの世代がそういうものに熱中していたことを知っているのって変でしょう。
――じつは宮﨑さんも読んでいた?
【鈴木】そう。つまり、高校生になっても少年漫画を読んでいた。そうすると、宮﨑駿という人が見えてくるでしょう。だから、ちょっと変わった人間になっちゃったんですね(笑)。
いっしょに仕事を始めてからも、宮さんがことあるごとに言っていたのが、「少年が主人公の物語をやるべきだ」ということ。あまりにもしつこく言うもんだから、ぼくもある日爆発しちゃって。「宮さん、言いたくないですけど、少年が主人公の物語はぼくが子どもの頃にもてはやされただけで、その後はないんですよ。だってアメリカにありますか? ヨーロッパにありますか? どこにもないでしょう」と言ったら、ほんとにびっくりしてましたね。
それでも、宮さんは少年が旅立ち、苦難を経験し、成長していくという物語をつくりたくてしょうがなかった。それはやっぱりあの時代の漫画を読んでいたからなんです。
世界中の内気な子を慰める日本の漫画・アニメ
――子どもが主役のフィクションという意味では、欧米でも児童文学が昔からありましたけど、日本の漫画のようなキャラクターはあまり思い浮かばないですね。
【鈴木】そう思いますよ。だからまあ、他の国から見たら稚拙というか、レベルが低く見られることもあったんじゃないですか。
――ところが、それがいまや、ジャパニメーションとか、クール・ジャパンとか言って、海外の若者が夢中になっている。不思議ですね。
【鈴木】たしかにファンは増えましたけど、そういう文化はメインにはなっていないんじゃないかな。
――マンガ・アニメがサブカルチャー扱いなのは変わらないかもしれないですけど、宮﨑さんがアカデミー名誉賞を受賞したり、アカデミー映画博物館のこけら落としが宮﨑駿展だったり、ジブリだけはメインカルチャー扱いじゃないですか。それがまた不思議なところで。
【鈴木】おかげさまでそうなったんですけれどね。日本のマンガ・アニメが欧米人に与えた影響がひとつあるとすれば、子どもたちの自己確立の問題でしょうね。アメリカにしろ、ヨーロッパにしろ、向こうの子どもたちは早くから自己確立を求められるじゃないですか。家庭でもそうだし、学校教育でも自分の考えを言葉にしたり、人の前で発表したりしなくちゃいけない。
それって内気な子にとってはつらいですよね。そういうとき、「そんなことできなくても大丈夫だよ」と慰めてくれるもの。それが日本のマンガ・アニメだったんじゃないですかね。