残ったパンは深夜までかかっても売り切る

地元の小麦を使うとうたうパン屋は近頃は増えてきた。加えて、水、卵、乳製品くらいは酪農地帯ならなんとかなる。酵母もまた自家製で作ることができる。しかし、「地元で作った砂糖」を使うのは難しい。なぜなら砂糖はさとうきび、もしくは甜菜てんさいから作る。サトウキビが生育する場所は熱帯だから、小麦は取れない。

一方、甜菜と小麦は両立するが、寒い地方ならどこでも甜菜を植えているわけではないし、また、製糖工場が地元にある場所はもっと少ない。

ゆえに、満寿屋のようにすべてを地元産にしているパン屋が存在することは奇跡とも言える。

そして、満寿屋は以前から環境問題、食品ロスをふせぐ活動に力を入れてきた。

例えば店舗にあってピザなどを焼く、石窯の燃料には「木質ペレット」を使用してきた。木質ペレットとは森林の間伐材や廃材を粉砕圧縮し有効活用した環境に優しい燃料である。また、エコバッグの推進やパンを載せるトレー用の紙の削減など、細かいところまで配慮している。

食品ロスについても以前から、少しでも減らすための行動を実践してきた。

それが売れ残ったパンを深夜まで売ることだ。

2008年から満寿屋は近隣の店舗で売れ残ったパンをすべて帯広の中心部にある本店に集めることにした。通常よりも安い値段をつけ、すべてを売り切るまで販売したのである。

「棚に1個だけ残ったパンは買わない」

社長の杉山雅則さんは「僕自身、かなり前から食品ロスの問題が気になっていました」と語る。

「2002年、就職した製粉会社を退職したのですが、その時、アルバイトで生活しながら、都内のパン店の売れ残りを集めて、渋谷の宮下公園にいた生活困窮者に配ったりしていました。

その後、実家のパン屋を継いでからは、食品ロスの解決には店に出すパンの数を絞ればいいと思いました。

でも、それは難しかった。お客さんは棚に1個だけ残ったパンは買わないんです。それはパンに限りません。お菓子でも総菜でも、たくさん並んだなかから、ひとつ、ふたつを選んで買っていくことが買い物なんです」

写真=『世界に一軒だけのパン屋』より

現実として毎日、パンの廃棄は出る。それで考えついたのが深夜販売だ。杉山さんは市内の店舗で残ったパンを回収してきて、駅近くの本店で夜の9時半から夜中まで販売することにした。全品、2割から3割引きだ。完売するまで店を開けているから廃棄はゼロ。食品ロスの削減に貢献している。

また、杉山は「夜、パン屋さんをやりたい」と言ってきた枝元さんに「協力します」と即答した。その時、「実は夜、売り始めたきっかけがあるんです」と打ち明けた。