雪を踏みしめ食べる姿は「これぞ北の男」

彼はにっこり笑って、「どうぞ」とあんパン2個、クリームパン1個、食パン一斤を譲ってくれたのである。そして、スーツに長靴のおじさん3人は支払いした後、扉を開けると、雪がちらつく闇のなかへ足を踏み出した。すると、なかのひとりが袋のなかからクリームパンを取り出し、歯でパンを引きちぎるようにして食べはじめたのである。一歩歩くごとに、パンをかじる。パンをかじりながら雪を踏みしめて去っていった。

野地 秩嘉『世界に一軒だけのパン屋』(小学館文庫)
野地 秩嘉『世界に一軒だけのパン屋』(小学館文庫)

「これぞ北の男だ。男の姿だ」

北の男たちは締めのラーメンなんて軟弱なものは食べない。わたしは味噌ラーメンを食べた自らを恥じた。

北の男の締めは十勝産小豆のあんパンだ。

いや、クリームパンかもしれないし、あんドーナツということもあるだろう。豪の者であればメロンパンか……。

帯広の人々は寒さに負けないため、そして、オミクロン株に負けないため、夜、パンを食べる。神楽坂の人々もまた帯広の人々に負けじと、夜、パンを食べる。

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