毎日捨てたくないと思いながら、パンを廃棄する

コロナ禍では飲食店に足を運ぶ人が減り、閉業した店も少なくない。そんな苦しいなかでも、昨年からスタートしたちょっと明るい試みがある。

北海道帯広市にある「満寿屋商店」のパン
北海道帯広市にある「満寿屋商店」のパン(写真=『世界に一軒だけのパン屋』より)

それが「夜のパン屋さん」だ。

一般に、パンを自店で焼いて販売する専門店は朝早くから営業する。どこも多くの種類を作っているため、余ってしまうパンが出てくる。大多数の店舗は余りを廃棄せざるを得ない……。食品ロスの削減が叫ばれる現在、毎日、パンを廃棄することを心苦しく思っている販売店は数多いのである。

なんといっても食品の無駄は多い。

FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によれば、世界では生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されている。日本でも年間に約612万トン(2017年度推計値)もの食料が捨てられていて、日本人ひとりあたりにすればお茶碗で1杯分のごはんの量になる。膨大な量が捨てられているのだが、一方で、地球上に暮らす約77億人のうち、8億人以上は十分な量の食べ物を口にできず、栄養不足で苦しんでいる。

そうしたなか、都内をはじめ各地で始まっているのが「夜のパン屋さん」だ。複数のパン販売店から廃棄に回す予定の商品を集め、夜間に販売する。パンをピックアップして売るのは雑誌『ビッグイシュー』を売る人たち。『ビッグイシュー』は生活に困窮した人たちが自立するための雑誌であり、駅前などで販売されている。

「夜のパン屋さん」プロジェクトは食品ロスの削減と困窮者の生活再建を支えようとする社会事業と言える。

北海道・帯広のソウルフード「満寿屋」

実はNPO法人ビッグイシュー基金の共同代表を務めているのは、微笑みながら料理を作る、料理研究家の枝元なほみさんである。

彼女はわたしが上梓した『世界に一軒だけのパン屋』(小学館文庫)の解説に「夜のパン屋さん」を始めた経緯をつづっている。

「あるとき、十勝の自然の中を友人の運転する車で走っていました。(北海)道内の志ある生産者さんをたくさん紹介くれた友人、北村貴さんは帯広生まれ。〈食いしん坊〉が共通する友人で、もちろん美味しいものもたくさん食べさせてもらいました」