世襲議員が総理となるケースが増えるカラクリ

総理大臣の出身県はどこかをめぐって、ますます重要度を増している要素は、増加する世襲議員の存在である。

日本の選挙システムは、地元の個人後援会とこれを中心とした人的ネットワークからなる「地盤」と称されるものが基礎となっており、国会議員になるためには、①市町村議会議員→県会議員→国会議員というルートをたどって自らの地盤を作りあげていくか、②政治家である親・親族の地盤を引き継ぐ(二世議員の場合)、③秘書として仕えていた政治家の地盤を引き継ぐ場合が多い。岸田新総理は②であり、菅前総理は③である。

自由民主党は政党のかたちを取ってはいるが、実は、こうした選挙地盤の形成・維持を家業とする自営業政治家が組合員となってつくる農協のような存在であるといってもよい。さらに言えば、もともと現職有利の小選挙区で当選を重ねる衆議院議員は江戸時代の藩主に似ている。自民党の党役員は、譜代大名の有力藩主が就く江戸幕府の老中のようなものであり、幹事長はさしずめ大老に比せられるのである。

政治家が総理大臣にまで出世するには時間がかかる。自民党内には当選何回という年功序列システムがあるためである。党や政府の要職に就くにはそれぞれの段階で当選何回という基準が重要になっている(もちろん能力や評判による抜擢人事もあるが)。従って、党の要職や閣僚を経て、総理大臣にまで上り詰めるにはかなりの時間を要するのが普通だ。

その場合、①の市町村議会議員→県会議員→国会議員というルートではやっと国会議員なれてもそれから当選を重ねた頃には年を取りすぎていることになる。やはり、②で若い時に親や有力政治家の地盤を継いで国会議員となり、その後、当選を重ねるというケースが総理大臣への近道ということになる(岸田新総理のように早く継げればさらによい)。総理大臣に二世議員が多くなるのは当然なのである。

二世議員の場合、親が東京で子どもに教育を受けさせようとするので、出身地は地方でも育ちは東京、出身高校も東京の高校である場合が多くなる。これは、江戸時代の藩主は参勤交代の制度から母親が住む江戸生まれ・育ちが多く、藩主にとって地元はむしろ単身赴任先のような位置づけとなっていたのと近いのである。

この点を見るために、図表3に49代宮沢喜一元総理(上で履歴を略述)以降の出身県、父親の職業、卒業高校・大学を掲げた。宮沢喜一元総理は旧制高校出身としては最後の世代である。

森喜朗(石川)、菅義偉2首相以外の自民党の総理大臣はすべて衆議院議員を父親に持つ世襲議員である。そのため、東京隣接県出身の小泉純一郎(神奈川)、野田佳彦(千葉)の2首相を除くと、地方出身県の高校卒業は、森、菅の2首相だけであり、他はすべて東京の高校卒業である。今や方言を話す総理大臣などはいない。岸田総理は広島弁で会話しないのである。

今後も、政治家の家業化に依拠した自民党一党支配の政治構造が続いていくとすると、総理大臣の出身県も有力な政治家の系譜を抱える地域にさらに特化していくとも考えられる。すなわち、「もともと有力政治家が多かった県以外の出身総理は出にくい」という法則が続きそうだ。

また、自民党はもともとイデオロギー政党として側面はそう強くないが、東京の進学校出身の総理大臣が多くなれば、そこで醸成される上品で進歩的な気風が日本の政治に反映してくるのが自然な流れだろうが、今回の重要閣僚の顔ぶれを見る限り、古臭い「昭和自民党」のにおいがぷんぷんするのである。

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