「台湾有事」を巡る高市早苗首相の発言に端を発し、日中間の緊張関係が続いている。今回は、ブランド志向の大きな差を手掛かりに、日中の差が目立つ調査データを見ることで、相互理解の助けとなることを目指してみよう。パリに本社を構える世界的なマーケティング・リサーチ会社であるイプソス(Ipsos)社が2025年9月に公開した最新版の報告書により、ブランド志向の世界動向や各国比較について見てみよう。

イプソス社は世界の新しい潮流のひとつとして「ヌーヴォー・ニヒリズム」を挙げている。これは、現在の政治体制への不満として示された露骨なニヒリズムと、経済的ストレスによって長期的な夢の実現が阻害された結果生じた快楽主義的な「今を生きる」精神からなっている。さらにこれと関連して「個人主義への逃避」というトレンドも指摘している。これは、世界状況を変えられないという意識の下で、人々が自分の生き方を重視し、自分自身だけでコントロールできるものに注目しているという動きである。

「個人主義への逃避」を示す指標として、上図のブランド志向データを掲げている。13年から25年にかけて、いずれの国でもブランド志向が上昇している点が目立っている。世界平均でも39%から52%へと13ポイント増と大幅である。

地域別の状況に着目すると、ブランド志向という点では中国と日本とで両極端になっている。25年の値で比較すると、中国は81%と世界一高く、日本は34%で世界一低くなっている。13年からの変化では、中国は9ポイント増と高まっているのに対して、日本は1ポイント増とほとんど変化がない。同じ東アジアでもブランド志向のレベルも動きもこれだけ違うのである。13年から25年にかけての十数年間で、日本はほとんど変わっておらず、世界的なブランド志向の高まりの中では異質である。

日本人と中国人は生活意識が正反対

イプソス社はまた「ヌーヴォー・ニヒリズム」の指標として、「未来は不透明であるため、今日のために生きているか」という設問への回答率を掲げている。この値とブランド志向の値との相関を見ると、中国はどちらの指標についても世界一高い値となっている。世界的に、政治体制や経済の現状を変えられないというニヒリズム意識の高まりが、ブランド志向に代表される「個人主義への逃避」を生んでいるというのがイプソス社の見立てであるが、中国の場合、それが最も端的にあらわれている。

意識調査の結果を見ると、日本人と中国人は、生活意識が世界標準とは正反対にかけ離れており、それだけ相互の考え方に齟齬が生じやすい。グローバリゼーションの負の側面が顕在化し、経済成長に陰りが生じる中で、中国では国民がやや捨て鉢的な快楽主義に傾斜しているのではなかろうか。

日本の特殊性も考えてみよう。日本には「無印良品」という、ブランドという概念をなくすことを目指して作られたブランドがある。流行や個性を排し、素材、工程、包装の「実質本位」の考え方に基づき、幅広い層に「これでいい」という満足感を提供することを特徴としている。衣服のユニクロ、日用品のニトリにも、これと似た発想の要素がある。

これらは、ブランドを否定するノーブランド的な要素に特徴があるといえる。こうしたブランドを選択するのは、高い値段のものを購入して自分の存在を際立たせるのが目的ではなく、むしろ自分らしさにこだわらず、商品そのものの機能や価値を追求するためである。

こうしたノーブランド・ブランドを好む日本人の志向が、ブランド志向で日本人の値が低い理由だと思われる。つまり、日本人は「個人主義への逃避」消費という側面があるとしても、むしろそれ以上に「個人主義からの逃避」消費への傾斜が著しいといえるのではなかろうか。ブランド志向が世界一強い中国人と、世界一弱い日本人。両国の政治的な対立も、こうした人としてのあり方の差が、根本的な要因のひとつなのかもしれない。

※本コラムはプレジデントオンラインの記事を再編集したものです。プレジデントオンラインはこちら

(図版出所=Ipsos Global Trends 9th Edition(2025年9月))

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