有力政治家の出身地かどうかが重要

山口に次いで、総理大臣を多く輩出している県としては、東京(高橋是清、東条英機、鳩山一郎、菅直人ほか)、岩手(前出)、群馬(中曾根康弘、小渕恵三、福田赳夫・康夫)、そして今回の岸田新総理の出身地広島(池田隼人、宮沢喜一ほか)が目立っている。山口以外を倒幕か佐幕かで説明するのは難しい。

東京出身の総理が多いのは、もともと人口が多く、さまざまなタイプの才人が集う首都だからという説明が適切だろう。その割に戦後の総理が2人というのは少ないとも言える。

群馬や広島で総理大臣を多く出しているのは、そもそも有力政治家がいたからという理由が大きい。

群馬は、戦後、福田赳夫、中曽根康弘という2人の有力政治家を輩出した点が大きい。広島の場合は、所得倍増計画で有名な池田勇人の出身地だった点が大きい。

岸田新首相と同じく広島出身の宮沢喜一元総理は、広島県福山出身で山下汽船勤務後広島3区選出の衆議院議員となった宮沢裕の長男として東京で生まれ、武蔵高校、東大、大蔵省と進み、父裕と古くから付き合いのあったやはり広島選出の池田勇人蔵相の秘書官となった。そうしたことから東京生まれ、東京育ちだが、広島選出の政治家となったのである。

池田勇人元首相がつくった自民党の名門派閥「宏池会」はこうして、父親の地盤を受け継ぐ宮沢喜一、そして岸田文雄と広島選出の東京人政治家に引き継がれていくことになった。なお、宏池会の名は中国の古典に拠っているが「池」は池田勇人、「宏」は広島に掛けていると言われる。

つまり、広島に関しても、有力政治家が出たから、その後も総理大臣を多く輩出しているという側面が大きいのである。群馬では、福田達夫氏が福田赳夫、福田康夫という親子に次ぐ三代目の衆議院議員となっている。福田達夫議員は54歳で当選わずか3回であるにもかかわらず、今回、岸田新総裁によって総務会長に抜擢されており、将来の総理候補の雰囲気を醸し出している。

山口出身の総理大臣が多いのには、長州派閥が明治政府の要職を占めていたからという側面だけでなく、戦後、岸信介、佐藤栄作という2人の有力政治家を輩出したことそのものの効果が大きいと考えられるのである。