未来を描く「韓国版ニューディール」
雇用の逆風も続いています。韓国統計庁が6月10日発表した5月の失業率は4.5%に悪化し、2010年1月以来、10年ぶりの高水準となっています。文政権は公約として「81万人の雇用創出」を掲げていましたが、結果は、高齢層の雇用拡大が進み、若者の雇用状況は改善されていない状態が続いています。そこで、今年、6月3日に文在寅大統領が未来へのビジョンとして「韓国版ニューディール」を実施することを発表しています。内容は「2022年までに55万の雇用を創り、2025年までに76兆ウォンを投資するという計画」だと明らかにしています。
この、韓国版ニューディールは雇用の安定化を基に「デジタルニューディールとグリーンニューディール」という2本柱で推進される予定です。「デジタルニューディール」には13兆4000億ウォンを投資し、33万の雇用を創出するという構想です。データ・ネットワーク・人工知能の生態系の強化、デジタルおよびセーフティネットの構築、非対面産業の育成、SOC(社会間接資本)デジタル化の4つのテーマで進められる予定です。
「グリーンニューディール」は12兆9000億ウォンを投入し、13万3000人の雇用を創出する計画です。都市・空間・生活インフラの緑化転換、グリーン産業の構築、低炭素・分散型エネルギー拡散などが含まれています。韓国政府は今後、追加課題を補完、拡大し、7月中に総合計画を発表する予定です。
大恐慌を乗り越えた米ニューディールの本質とは
そもそも、ニューディール政策とはアメリカで世界大恐慌後に公的年金や失業保険を創設し、大きな政府に舵を切ったフランクリン・ルーズベルトの政策です。不況では国民がお金を使わなくなるため、その分を政府が供給するというもので、“お金のバラマキ”を行う政策だと言われています。ニューディールは政府が財政を用いて雇用を生み出し経済を活性化させたことに焦点が当たりやすいですが、重要な点はそれだけはないのです。むしろ、公共工事などの、土木工事の効果はさほど大きくはなく、財政拡張にも限界がありました。
本当に重要なのは、ディール「契約」の部分です。ニューディールは、既得権益者だけが有利になる契約ではなく、権力関係と不平等な経済を改革していった新しい「契約」だったのです。具体的には、1935年のワグナー法は、団結と団体交渉など労働者の基本権を保証して最低賃金制を取り入れ、労働者の交渉力を強化しています。また社会保障法は、雇用保険や年金などの社会のセーフティネットを確立し、ルーズベルトは富裕層に対する最高所得税率も引き上げました。この歴史的事実から、現代でもニューディールをうたうならば、既得権にメスをいれつつ、脆弱な労働者を保護する必要があります。