電通への罰金「たったの罰金50万円」

あの高橋まつりさんの過労死事件も、電通に科された刑事罰はたったの罰金50万円であった(遺族に対する民事的な賠償は別途されている)。なお、なぜ30万円を超える金額になったかというと、次の理由による。

電通が起訴された事件は、高橋まつりさんを含む4名の社員に対し、三六協定で労使が定めた上限を超える残業をさせた(労基法32条違反)というものであった。このような場合、罰金刑の上限は、単純に4名分を合算することになるので、30万円×4=120万円となる。つまり、法定の上限からすると、70万円も減額されていることになる。

尊い命が奪われたにもかかわらず、このような軽い刑で済ませて良いのだろうか。

国の姿勢は「企業優先」「人命軽視」

確かに実務上はどんな刑罰であれ、上限いっぱいの刑が科されることは稀であるものの、そもそもその上限が低すぎる。したがって、そこからさらに軽くする必要性はあるのか非常に疑問である。50万円など、電通にとっては痛くもかゆくもない。この罰則の異常な軽さは、次のとおり、ほかの法律と比較すると際立つ。

明石順平『人間使い捨て国家』(角川新書)

・著作権法の場合、著作権侵害に対する罰則は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金。法人に対する罰金は最高で3億円。
・特許法の場合、特許権侵害に対する罰則は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金。法人に対する罰金は最高で3億円。
・金融商品取引法の場合、有価証券報告書の重要事項に虚偽の記載のあるものを提出した場合は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金。法人に対しては最高で7億円の罰金。

このように、いずれも個人に対する法的責任の上限は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金となっており、法人に対しては、著作権法及び特許法が3億円、金融商品取引法については7億円にも達する。

これらと比較すれば、罰金30万円など無に等しい。これら3つの法律に共通するのは、このように罰則を重くしないと、企業の営業活動に大きな支障が出る点であると思われる。他方、その企業を支える労働者に対する保護は、恐ろしいほどに軽く見られている。「企業優先、人命軽視」というこの国の姿勢が透けて見える。

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