長時間労働と脳卒中、心筋梗塞の深い関係
長時間労働と健康については、たびたび社会問題として取り上げられてきたこともあり、長時間労働がよくないことはもはや常識となっています。国の施策でも働き方改革などがうたわれ、長時間労働の削減やワークライフバランスの促進が重視されるようになっています。
法的にも、社会的な流れに呼応するかたちで、時間外労働の上限規制が設けられました。労働基準法で、大企業は2019年より、中小企業は2020年より、時間外労働の上限規制が罰則付きで規定されています。同法では時間外労働の上限基準は原則45時間とされています。一般的に、2時間程度の残業を毎日おこなっている場合に月45時間の時間外労働に達する計算となります。
社会的な流れを受け長時間労働は減少傾向ではありますが、なくならないのも事実です。厚生労働省の統計では、30代、40代男性の約10%が、月末1週間の就業時間が60時間を超えていることがわかりました(令和3年版「過労死等防止対策白書 1労働時間等の状況」厚生労働省)。
長時間労働が健康上問題となることを漠然と知っていても、具体的にどのような疾患につながるかまではイメージできていない方も多いのではないでしょうか。そこで、長時間労働と健康障害との関係について具体的にご紹介します。
はじめに、長時間労働との関連が深い病態を確認しておきます。厚生労働省による労災認定基準で認められている具体的な病名を以下に列挙します。
脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、大動脈解離、重篤な心不全
これらは「脳血管疾患(脳卒中)」や「虚血性心疾患」などと呼ばれる病気で、脳および心臓の疾患の総称と考えてください。これらの発症と過度な仕事との関連が認定された場合には、労災補償の対象となることが労災認定基準に明示されています。
脳疾患や心臓疾患につながる動脈硬化
では、長時間労働が脳・心臓疾患の危険度を高めるのはなぜでしょうか。長時間労働による健康障害を考える際に押さえておきたいポイントは、「動脈硬化」です。実は、現在生活習慣病と言われている病気のほとんどが、動脈硬化と関連があるとも言われています。
動脈は心臓から全身へ血液を送り届ける役目をもつ血管で、通常は弾性がありますが、動脈硬化では文字通り動脈が硬くなります。血管内にプラークと呼ばれる塊がたまり、血管が狭くなるのも特徴です。こうして脳へつながる血管、心臓へつながる血管の流れが悪くなり、やがて疾患として発症するのです。
以上を踏まえ、長時間労働の観点から分析された調査結果を挙げて健康障害との関連をご説明いたします。