残業で増える「悪玉コレステロール」

日本において労働時間の長さと検査値との関連を調査した結果、1週間の労働時間が長くなるほど、LDLコレステロール値が高くなっていました(*)。特に週の労働時間が50時間を超えると、優位に高い結果となっています。一般的に週50時間の労働は、1日あたりの時間外労働2時間程度なので、労働基準法が月の時間外労働の上限を45時間とすることに矛盾はないものと考えられます。

(*)"Objective and subjective working hours and their roles on workers’ health among Japanese employees" Ochiai et al, Industrial Health 2020, 58, 265–275

LDLコレステロールは脂質の一種で一般的に「悪玉コレステロール」と呼ばれています。生活習慣病の指標のひとつであり、健康診断で異常を指摘される方が非常に多い項目です。血中に溶け込み全身を巡りますが、増え過ぎると血管に沈着し動脈硬化の原因となります。なお、脂質は健康維持に欠かせない栄養素です。とり過ぎはもちろんですが、全くとらないことも健康を損ねることも併せてお伝えしておきます。

心臓病や脳卒中のリスクが上昇

こちらは世界規模の分析となりますが、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)の研究で、週の労働時間が55時間を超えると、虚血性心疾患で死亡するリスクが17%高くなること、脳卒中の発症リスクについても35%高くなることが示されています(ILO駐日事務所 プレスリリース「長時間労働が心臓病と脳卒中による死亡者を増加させる可能性をILOとWHOが指摘」)。この研究では、週55時間以上の長時間労働により、推計で74万5000人が死亡した(2016年)ことも指摘されており、これらを根拠にWHO、ILOは長時間労働を減らすことを要請しています。

また、安静時の血圧に優位差のない30代、40代、50代の健常男性を被験者として長時間労働を模擬的に検証した実験では、被験者の年代が上がるのに比例して収縮期血圧が優位に高くなりました。高血圧は脳・心臓疾患の危険因子であるため、つまりは年齢が上がるほど長時間労働による脳・心臓疾患の発症リスクが高まると考えられ、より注意が必要です。

ただし若いからといって油断はできません。厚生労働省の統計では脳卒中は30歳から、虚血性心疾患は35歳から割合は少ないながらも患者数が増え始めることもわかっていますので、同様に長時間労働を避ける必要があります(図表1-2-4 脳血管疾患患者数の状況 図表1-2-7 虚血性心疾患患者数の状況「平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に」厚生労働省)。

動脈硬化のイメージ画像
写真=iStock.com/Rasi Bhadramani
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