健康診断は万能ではない
私は産業医として、担当している企業の従業員の方の健康診断のチェックを行っています。
会社の一般健診は、高血圧や糖尿病、中性脂肪、コレステロールなど脂質異常症に関わる数値、つまり生活習慣病のチェックが主になります。生活習慣病は、悪化すると、心筋梗塞や脳卒中などにつながりますから、こうした検査を定期的に行うことは重要です。
でも、「健診でひっかからなかったから、自分は何も病気がないんだ」という勘違いをしている人が本当に多い。それは大間違いです。
「突然倒れて救急車で運ばれ、緊急手術を受け入院することになった」という人の中にも、「健康診断ではオールAだった」という人は少なくありません。「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいるのです。
締めつけるような胸の痛みには注意
健診結果の誤解や過信が、特に深刻な病気につながりやすいのが、心臓や脳の疾患です。
残念ながら、心臓や脳の異常の中には、健診で見つけることが難しいものもたくさんあります。だからこそ、少しでも不調を感じたら、すぐに病院に行く必要があるのですが、「健診でオールAだったから、まさかそんな大変な病気の予兆とは思わなかった」と放置してしまい、倒れて救急車で運ばれ集中治療室……といった例が後を絶ちません。
では、どんな不調に気を付ければよいのでしょうか。
たとえば心臓なら「胸を締めつけられるような痛み」です。
これは、刺すような痛みではなく、胸にとんでもなく重いものがのしかかったかのように、締め付けられるように感じます。「ゾウが乗っているような痛み」と言われることもあります。こうした痛みがある場合、狭心症や心筋梗塞などの可能性があります。
心筋梗塞など、心臓の血管が詰まったときには、一般的に、胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。
こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください。心臓の血管が詰まりかけていたらカテーテルの治療をしなければいけないので、クリニックでの対応は難しく、施設の整った大きな病院に行くことになるでしょう。