メンタルヘルスも悪化する

さらに、メンタルヘルスとの関連も無視できません。精神障害による労災請求件数は年々増加傾向にあり、メンタルヘルスの問題は社会問題化しているといえます(令和3年度「過労死等の労災補償状況 精神障害に関する事案の労災補償状況」厚生労働省)。月の時間外労働時間と抑うつ傾向の有無を調べた研究では、時間外労働が増えるほど抑うつ傾向得点が高くなり、メンタルヘルスが悪化していることがわかります(島悟「過重労働とメンタルヘルス」)。月の時間外労働時間と幸福度を調べた結果では、時間外労働30時間を超えてくると平均を下回ったそうです(株式会社パーソル総合研究所「職場の残業発生メカニズム──残業習慣の「組織学習」を解除せよ」)。

ただ、この研究では時間外労働時間が60時間を越えると幸福度が微増することも示されており、長時間労働の状況にやりがいを感じている層が一定数いることも指摘されています。ですが、長時間労働がフィジカル面でリスクとなることは明らかです。疾患の発症までには至らなくとも、出勤はしていても十分なパフォーマンスを発揮できていない事態(プレゼンティズム)にも陥りやすいです。

総合的にみて、過剰な長時間労働を減らすことが、より心身の健康には大切であると考えます。また、従業員の抱える健康上の問題と長時間労働との関連が認められる場合、企業側は適切な対処をしなかったとして安全配慮義務違反に問われるリスクもあります。

終業から次の始業までの間を空ける

「勤務間インターバル」という言葉をご存じでしょうか。勤務間インターバルとは、終業から次の始業までの間隔(時間)を指します。国の推奨では、最低でも9時間以上のインターバル確保が必要とされています。労災認定の基準にも用いられていますが、厚生労働省によると勤務間インターバル制度を導入している企業は、令和3年度(2021年度)の調査で4.6%ほどだそうです。

日本国内での調査では、勤務間インターバルが短いほど睡眠時間が少なくなり、睡眠の質も落ちる結果が出ています。余暇時間についても同様で、勤務間インターバルが短いほど余暇に充てられる時間が短くなりました(Ikeda et al, J Occup Health 2018)。

睡眠の重要性については読者のみなさんもよくご存じかと思いますので、ここでは余暇時間の重要性についてお伝えしたいと思います。