「三六協定」がなければ1分でも違法残業

締結していない理由は「時間外労働・休日労働がない」が43.0%と一番多いが、皆さんはこれを信じられるだろうか。私はとても信じられない。締結していなければ1分労働時間がはみ出しただけでも違法なのだから、締結しない理由が無い。ただ単にめんどくさかったから、というのが本当の理由ではないかと思う。

一方、2位以下を見ると、「時間外労働・休日労働に関する労使協定の存在を知らなかった」(35.2%)、「時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出を失念した」(14.0%)、「就業規則等で規定を設けるのみで十分と思っていた」(1.0%)となっている。1位の理由に比べればまだこちらの方があり得る。特に規模の小さい企業の経営者の場合、本当に法律に無知な場合が多く、まさに「俺が法律」となっていることがある。

三六協定すら締結しない企業が、残業代をきちんと払うだろうか。私はそうは思わない。この三六協定締結率の異常な低さは、極めて多くの残業代不払いが発生していることを推認させると言ってよいだろう。

抜け道で残業時間は青天井だった

そもそも締結すらしていない企業が全体で4割を超え、中小企業に限っては約6割にのぼるこの三六協定であるが、協定の際には上限を決める必要がある。では、その上限は労使で合意さえすれば限界はないのか。2019年4月に改正労働基準法が施行される前までは、この上限について、大臣告示(平成10年労働省告示第154号)が存在するだけであった(図表1)。

ざっくり言えば、1カ月45時間、1年360時間ということである。1カ月45時間だとおおむね毎日2時間程度の残業になる。なお、年合計360時間以内に収めるという縛りがあるので、毎月で平均すれば残業を30時間以内にする必要がある(360時間というのは、45時間を単純に12倍した数字ではない)。それだと、毎日の残業時間はだいたい1時間20分程度にしなければならない。

ただ、これはあくまで大臣告示なので、法律と同じ拘束力を持つわけではない。その上、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合、「特別条項」を設ければ、限度時間を超えられる、という抜け道が用意されていた。

そしてこの抜け道がフル活用されていたのである。すなわち、残業時間は事実上、青天井という状態であった。図表2は特別延長時間の上限についての調査結果である。

過労死ライン超えが許されていた

特に大企業に注目していただきたい。特別条項付き三六協定を締結している企業の割合は58.6%にも達し、うち過労死ラインである80時間を超えるものは14.6%、100時間を超えるものが3.9%もある。かつては特別条項を設けさえすれば、過労死ライン超えの残業をさせることが可能な状況だったのだ。これでは意味がない。