なお、中小企業はその割合が小さくなっているが、これは、先ほど指摘したとおり、中小企業の場合はそもそも三六協定自体締結していない企業が約6割を占めているからであろう。大企業より中小企業の方がマシというわけではない。

私の経験から言うと、大企業と中小企業の違いは「文書が整っているかどうか」に過ぎず、異常な長時間労働をさせるという点はまったく同じである。企業規模が大きくなれば、法務部門にも人的リソースをかけることができるので、文書だけはきちんと整っている。

法改正で青天井は解消されたが…

2019年4月から改正労働基準法が施行され、従前は大臣告示で定められているだけだった前述の上限時間が法制化された(ただし、中小企業への適用は2020年4月から)。原則は1カ月45時間、1年360時間である。特別条項を付ければこの上限を超えられるが、従前とは異なり、この特別条項による延長時間にも上限が設けられた(図表3)。つまり、青天井状態は解消された。

非常にややこしいのだが、この特別条項の限度時間規制を要約すると次のとおりである。

①時間外労働が年720時間以内
②時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
③時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」がすべて1カ月当たり80時間以内
④時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6カ月が限度

①については、「休日労働時間が含まれない」という点がミソである。なぜか休日労働の時間が除外されているため、大幅に時間が削られてしまう。

②~④の規制は、要するに過労死ラインに到達しないようにしろと言っている。裏を返せば、過労死ラインまでの残業が許容されているということである。月45時間という原則は、年6カ月までなら超過できてしまう。

過労死や過労うつは簡単に無くならない

これで過労死や過労うつがなくなるのだろうか。私は到底そうは思えない。「過労死ライン」というのは、「そこに到達しなければ全部セーフ」というものではない。人によってストレス耐性には差があるし、過労死の認定に当たっては、労働時間以外のほかの要素も考慮されるからである。