2023年8月、ある若手医師(26)の過労自殺ニュースが報じられた。

神戸市内の病院に勤め、2020年度から研修医、2022年度からは内科専攻医(旧後期研修医)として消化器内科で働いていたが、2022年5月に自宅で自殺した。死後の調査で「死亡まで100日連続勤務」「直前1カ月の時間外労働208時間」だったことが認定され、労働基準監督署によって労災として認定された。

悩める医師
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病院側vs.遺族、埋まらない溝

病院は8月17日に記者会見し、「認定された時間外労働には、高度な専門性を身に付けるための自己研鑽けんさんや睡眠時間などが含まれている」として、「全てが労働時間にあたるわけではない」と主張。「自主性を考慮した職場環境で、過重な労働を課した認識はない」との見解を示している。

一方、遺族の記者会見によると、2022年2月ごろから業務量が増え、遺書には「知らぬ間に一段ずつ階段を昇っていたみたい」「おかあさん、おとうさんの事を考えてこうならないようにしていたけれど限界です」と記されていたそうで、病院側に民事裁判で損害賠償を求める意向を示した。

医師の「働き方改革」は2024年度から施行予定だが…

2019年4月から、いわゆる「働き方改革関連法」が施行され、一般労働者には「残業時間の上限(年720時間)」「勤務間インターバル」などが施行されるようになった。一連の改革によって、厳守されてはいないものの「昔よりは仕事が楽になった」と感じるビジネスパーソンも増えているかもしれない。

しかしながら、医師に関しては「長時間労働の背景に業務の特性があることから、時間外労働の上限について適用が5年間猶予」さらに「時間外労働最大年1860時間(月155時間相当)」と、定められた。

それでも、2024年度から施行される「罰則付き時間外労働制限」で負担軽減に淡い期待を持つ医師も存在したが、本事件によって現実を思い知らされた。