文春砲が暴いた“自己研鑽”の真実

2024年4月からの医師の「働き方改革」施行が近づくにつれて、勤務医がよく聞くようになったフレーズがある。「自己研鑽」である。病院に入院患者がいる以上は、当直を行う医師は不可欠だ。そして、「当直(17時~翌9時)」を月5回行えば、それだけで「時間外労働月80時間」を超えてしまう。

本来の自己研鑽とは「自らの知識の習得やスキルアップを図るために自主的に行う学習や研究」のはずだが、「長時間労働厳禁」を要求された病院管理職は、「労働時間を圧縮しつつ、人件費を節約する魔法の言葉」として「自己研鑽」を多用するようになった。

聴診器は手に持ち、腕を組んでいる医師
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例えば、「夜中に緊急手術になったが当直医だけでは手が足りないので、若手医師を呼び出して“自己研鑽”として手術を手伝ってもらう」のようなケースである。

さらにこういうケースでは、当直医は当直手当金をもらって朝には帰宅できても、呼び出された若手医師は「自己研鑽(≠時間外労働)」なので「深夜の無料奉仕かつ、翌朝から通常業務」となりがちなのだ。本事件の病院側も「出勤している時間すべてが労働時間ではなく、自己研鑽や休憩も含まれる」「(死亡前月の時間外業務)申告は30時間30分」と主張している。

一方、遺族も記者会見で「常識的な残業申請をするように。若い頃から経験より金を取るのは駄目だ」と、病院側に叱責されたエピソードを公表し、「時間外労働の実態は申告よりはるかに多かった」旨を主張している。

文春オンライン8月21日号「《「院外持出厳禁」文書入手》 病院が職員に配った「あれも業務外、これも自己研鑽」マニュアル」記事は“自己研鑽”の実態を世間に広く示した。

同記事によると、同院で事件後に作成された「医師の時間外労働と自己研鑽についての取り扱い指針」によると、「手術や処置等の予習や振り返りは自己研鑽」「(業務/自己研鑽は)最終的には上司が判断します」などの文言が並んでいた。「長時間労働の軽減」「再発防止」というより「書類上の労働時間を減らして、病院管理者の罰則を避けたい」としか思えない内容であった。