年収500万円だったが、4000万円で和解

交渉は戦いだ。私は23歳と29歳の時に2社から不当解雇され、2つの労働裁判で和解交渉を複数回経験した。その際に会社側から最初に提示された金額は、どちらも最終的に支払われた金額の約7分の1だった。

つまり私は交渉により7倍近く、和解金を増額させたことになる。2社目を解雇された時は年収500万円だったが、最終的に4000万円で和解したので、実に8年分の年収に相当する。

なぜ私は交渉を有利に進め、高額な和解金を獲得することができたのか?

オフィスで腕を組んで向き合う男女
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結論から先に伝えると、交渉術の一つである「BATNA」と「アンカリング」を駆使した。知識は武器だと私は思う。本稿が読者の皆さんにとっての武器になることを願いながら、まずは和解交渉がどのように進んでいくのか、私の実体験を紹介しつつ順を追って説明しよう。

不当解雇に納得できなかった私は会社を訴え、2年間ほど法廷で争い、いよいよ判決日が近づいてきた。私が勝訴した場合、裁判期間中に貰えるはずだった給与全額。さらに会社へ復職する権利。これら2つの戦果が手に入る(〈解雇通知書はカネになる…2社から裁判で計4700万円を勝ち取ったモンスター社員の「円満退社」の手口〉参照)。

「和解金を支払う」と言われたが最初は拒否

そして、おそらく私の勝訴が濃厚だからだろう。裁判中、会社側から「和解金を支払うので、訴えを取り下げ、円満退社してほしい」と提案を受けた。そこで和解期日を設けることになった。裁判所内にある会議室のような部屋で、原告(弁護士も同席)と被告が交互に、黒い法服ではなくスーツ姿の裁判官に想いをぶつける。

そこでは紛争の当事者同士が直接話し合うわけではない。主張を終えて退出するのと入れ替わりでもう一方が部屋に入るという、裁判官を通した伝言ゲームのようなやりとりを行うのが司法界におけるリアルな和解交渉の姿だ。

会社側から和解案を提示されたものの、まったく心動かされない金額を提示された私は「和解ではなく判決でお願いします」と、裁判官経由でキッパリと和解拒否の意向を伝えた。

それから5分ほどたっただろうか。再び部屋に入るよう指示され、裁判官と向かい合うと、最初の和解金額から少し上乗せされた額を再び提示され、「いかがでしょうか」と告げられた。

私は、この提案も拒否した。安過ぎると思ったからだ。その後、同じようなやりとりが複数回行われた。日を改めたこともある。最終的に人生1回目の裁判は700万円。2回目の裁判は4000万円。高額な和解金を勝ち取ることに成功した。