交渉はカードゲームに似ている

最後に、ブラック労働に苦しんで労基署に駆け込むか、会社を訴えることを検討している人に伝えたい。労働紛争の場では自分と相手は言わずもがな、弁護士や裁判官にもそれぞれの利益、思惑がある。この点は忘れがちなので強く強く意識すべきだ。

中でも弁護士は、早期の和解を熱心に勧めてくる。彼ら彼女らは正義の味方ではなく、あくまでビジネスパートナー。もちろん依頼人の利益を最大化することを真摯しんしに考えているかもしれないが、弁護士にとっての利益を犠牲にしてまで依頼人を助けるとは考えにくい。

弁護士の立場になってイメージしてほしい。判決まで争って勝訴した場合、100万円を獲得できそうな案件があったとする。しかし、相手側は和解であれば300万円を支払うと言っている。弁護士報酬は獲得金額の30%。

依頼人は「お金が目的じゃない。白黒ハッキリさせるまで戦う」と意固地になっているが、正直、勝てるかどうか微妙な案件だ。また、裁判はまだ始まったばかりで、判決まで争うとなると1年近くの時間を要する。

しかし和解なら明日にでも解決できるかもしれない。担当している訴訟案件は他に何十件もあり、休日出勤や睡眠時間を減らして何とか回している……。このような状況で、弁護士は依頼人にどのような戦略を提案するだろうか?

交渉はカードゲームに似ていると私は思う。弁護士や裁判官がすぐに和解を勧めてきても動じず、切り札のカードをどのタイミングで出すべきか、じっくり考えながら会社と戦うべきだ。

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