高校生の医学部人気はいつまで続くのか。評論家の八幡和郎さんは「地方や名門女子高ではさらに熱が高まっているが、一部のトップ校では人気に陰りが見え始めている。代わりにIT分野の学部・学科の難易度が上がっており、日本の将来を考えると歓迎すべき変化だ」という――。
地元大学の医学部の合格者を競う名門高校
医学部人気は、戦後、一貫して上昇し、近年も偏差値は上がり続けている。大都市近郊の国公立地方大学医学部の偏差値は、東京大学や京都大学の理系他学部を上回っているほどだ。
地方の名門公立高校などでは、東京大学や京都大学などより、地元大学の医学部に送り込む人数のほうを競っているとすら言われるほどだ。教え子が地元で医者になれば、先生方にとって将来、個人的に心強いという実利もある。
医学部人気は、最難関に挑戦することが受験生本人にとってゲーム感覚としても楽しいし、親にとっても自慢できるという動機にも基づく。中高一貫トップクラス校の卒業生たちに聞くと、自分の学年で東京大学理IIIや京都大学医学部(京医)へ進んだ同級生のうち、自分が患者として診てほしいと思う人はほとんどいないという。医学そのものに対する関心が高いから医学部に進んだのでないから当然だろう。
そして、理IIIや京医になると、入学試験の合格点数が高くなりすぎて、ミスを最小限にするための特殊なテクニックも必要になる。その結果、中高一貫の学校に通い、さらに専門の受験塾に通うなどして(いずれも少なくとも年間、数十万の授業料が必要)、ようやく合格できる。
都市部の高所得層の子どもしか入れない学部に
このために、公立高校出身者が合格するには、非常に高いハードルがある。たとえば、2023年の入試では、理IIIの合格者のトップ3は灘(兵庫)15人、桜蔭11人、筑波大学附属駒場7人、京医も灘、洛南(京都)、東大寺学園(奈良)から2ケタが合格している。
一方、公立の合格者は理IIIで11人、京医で14人と全体の約1割にすぎない。公立といっても新しい中高一貫なども含まれる。
事実上、私立の中高一貫校と専門塾に通わせられるような高所得層しか入れない学部になってしまっているのだ。