医者は「いちばん安定しておいしい仕事」

どうしてこうなったかというと、日本では医者がいちばん安定しておいしい仕事だからだ。市場機構はローリスク・ハイリターンのものを排除するはずだが、日本では、医師の独占業務が異常に広く、医学部の設置が医師会などの圧力で抑制され、公的な皆保険制度が存在しているので、医師が安全有利な職業になったままマーケットメカニズムが働かない。

このような特権的地位にいる医師がさまざまな害悪をまき散らしていることは、昨年刊行した『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)で論じた。

医者たちは「自分たちの仕事は大変で、何もおいしくない」と言い張るが、それなら、医学部の偏差値が長い間上がり続けるはずはないし、開業医はともかく、勤務医までが自分の子供の医学部進学にこだわるはずないから嘘である。

頭を抱えている医師
写真=iStock.com/kuppa_rock
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貴重な理系人材が医学部に流れ過ぎている

そう指摘すると、お医者さんたちは「他の理工系学部の卒業生たちの待遇を改善すればいい」という。もちろん、理科系学部の優遇策は必要だが、学歴による所得格差を広く抜本的に向上させて、現在の医師よりおいしくするなど不可能であり、理工系の待遇改善も図りつつ、まずは医師の他職種に対して不均衡に高過ぎる待遇を下げるべきだ。

平成の30年を通じて日本の経済成長率は世界主要国で最低だったが、平均寿命は常に主要国最長で、しかも、延び続けている。経済が成長せずに少子高齢化ばかり進めば、現在のような公的医療や福祉制度の維持は不可能だから、現在のような低成長と長寿化が続けば、日本の高齢者の老後はずいぶんと惨めなことになるだろう。

大きな問題は、現在の日本が必要としているデジタル・科学技術分野などに進むべき、理系の優秀な人材が医学部に流れ過ぎていることだ。いまの世界で最も優秀な人材が必要とされるのは、IT、先端産業、金融工学などであって、アメリカでも中国でも最高クラスの人材がそうした分野に進んでいる。