自省的な態度は利用されやすい

我々は、いつも心のどこかで「自分にも間違いがあるのではないか」と自分を疑うところがある。しかし、こういった自省的な態度はクレーマーに利用されやすい。ミスがなくても「ミスがある」と言われ続けると自分が怪しくなってくる。

こういった場合は、クレーマーの主張する問題点を紙に書いてみるといい。頭で考えるだけでは次第に自分を追い込んでしまう。紙に書くことで冷静になれる。そのうえで「問題点とされるものが現実にあるのか」「問題点が発生した原因は何か」を箇条書きにするといい。

紙に書くことで「これは自分のミスではない」と自信を持つことができる。自分で自分を疑いだしたら、何もかも自分の責任になってしまう。紙に書きだし、事実をとらえなおすことで、弱った自信を回復してほしい。

“対会社”から“対担当者”に構図をすり替える

交渉において相手を分断させることは、定石のひとつだ。孤立させることで物理的にも精神的にも相手を衰退させることができる。こういった戦術は、クレーマーも多分に利用してくる。

「クレーマー対会社」という構造であるべきなのに、いつのまにか「クレーマー対担当者」という構造にすり替えられてしまう。こうなってしまうと、クレーマーの手から逃げだすのは難しい。

ある家具店の営業担当者から「助けてほしい」という相談の電話があった。会社名を聞いたものの、はっきりと回答しない。「変わった相談者だな」と感じつつも、相談日時を設定した。やってきた担当者は青白く、明らかにやつれていた。

話としては、家具を設置したときに「床に傷をつけた」としてクレーマーの餌食になっているとのことであった。

本人としては、傷をつけないように養生もしっかりしていて、傷などつけていないという話であった。話の迫真性からして嘘を言っているようにも思えない。でも相談を聞いていて何かが引っかかる。

はたと気がついたら、彼の話からは社長や上司という言葉がまったく出てこなかった。そこで彼に「ところで会社としては、今回のクレーマーについてどのように対応されているのでしょうか」と質問した。彼はうつむいたまま、「会社にはまだ言っていません」と答えた。