担当者の心理につけ込むクレーマー

こういうケースでは、だいたいの結末は予想がつく。「自分でいくらかお金を渡したの」と聞いた。しばらくしてうなずいた。自分のしてしまったことで自責の念に駆られていたのであろう。それからはありのままを話すようになった。

クレーマーは、営業担当者が柔和な人だと見抜いたらしく、「お前も家族を持っている男だろ。自分のミスは自分で責任を取れ。会社に迷惑をかけるな」と語ったそうだ。彼としては、「自分のミスで会社に迷惑をかけたくない」との一心だった。

そのため、クレーマーからの揺さぶりとはわからずに、話を鵜呑みにしてしまった。クレーマーは、彼に「会社や家族に迷惑をかけないよう話すな」と諭すように伝えていたようだ。まじめな彼は言われるがままに賠償の名目で金銭を支払うことになった。

こういったとき、クレーマーはいきなり多額の請求をしてくることはない。個人で支払えるくらいの数万円を執拗に求めてくる。「少しずつ、ずっと」というのがこの手のクレーマーが求めるものだ。担当者の彼としてはあとになって怖くなった。

いつまでも支払えるわけがない。いつかは家族にばれてしまう。そこで「何とかしてほしい」と藁にもすがる思いで相談にやってきたというわけだ。

個人ではなく、会社として対応する

私は「このままではお受けできません」ときっぱり答えた。助けを求めていた彼にとっては絶望的な響きだったかもしれない。彼が最初にするべきことは、自分の口で事情を社長に説明することだった。彼にしても、「クレーマーからの要求を隠蔽していた」という問題点があるからだ。

これは彼自身が自分で説明しなければならない。弁護士が代わりに社長に説明すれば話は早いだろうが、そんなことをしても彼のためにならない。同じことを繰り返すことにもなりかねない。彼をかわいそうな社員としてとらえることは簡単だが、かわいそうというだけでは問題の解決にはならない。

安易な同情は、ときに問題を見誤らせる。彼は意を決して、自分のしたことをありのまま社長に説明した。社長は青天の霹靂で、すぐに彼とともに相談に来た。「会社として正式に依頼したい」とのことであった。

そうなれば、あとの行動はシンプルだ。すぐに内容証明郵便でクレーマーに「社員には二度と連絡をとってはならない。何かあれば弁護士が対応する」と通知した。クレーマーからは、二度と連絡はなかった。