ミスの有無、軽重は関係ない
クレーマーは、そういった緻密な判断には一切興味を持たない。「自分は納得できない」となれば、苦情を言い放つのに十分な理由になる。そのため、相手にわずかなミスでもあれば、鬼の首を取ったように追及してくる。
言われた側は「たいしたミスではないでしょ」と思っていても、「ミスがある」と言われると否定できない。ましてや相手がすごい剣幕で詰め寄ってきたら、なかなか反論できるものではない。なまじ反論すれば、「ミスをしたうえに反省もしないのか」とかえって火に油を注ぐことになる。
こちらにミスがない場合ですら、クレーマーから言いがかりをつけられることもある。クレーマーにとっては、「不満があるのでクレームを言い立てる」ことが目的であって実際にミスがあるかどうかはさしたる問題ではない。こちらにミスがなければ、あるように声を上げればいいと考えている。
「ミスはない」といくら説明をしても、「嘘を言っている」あるいは「それが問題ではない」と反論されて議論はいつまでたっても終わらない。ただひたすら我慢せざるを得ない。我慢できなくなると、「では、どうしたらいいのですか」ということになり、クレーマーに要求されるがままに従うことになる。
誠心誠意尽くしても収まらない感情
以下の例は、あるリフォーム会社の案件である。どこにでもあるような親子経営の小さなリフォーム会社であった。リフォーム会社は、クレームを受けやすい業種のひとつである。もともと経年劣化などで傷んでいる物件も多く、何か問題があっても、業者のミスなのか、あるいは建物の劣化が原因であるのか、はっきりしないところもある。
この親子は、そういった事情をよく理解しており、事前に丹念に説明をしていた。ある独り暮らしの女性から依頼を受けてリフォーム工事を始めた。工事期間中から女性は、いろいろ指摘するようになった。
「塗装の色が事前の説明と違う」「職人からの挨拶がなかった」「工事が遅い」など挙げだしたらきりがない。しかも「今すぐ謝罪に来い」の繰り返しである。いずれも問題がある内容ではなかったが、社長は女性の機嫌を損ねないように謝罪し、最大の配慮をしながら工事を終えた。
しかし、女性からは「こんな工事では代金は支払えない。むしろ慰謝料を要求する」ということであった。親子は、誠心誠意尽くしたものの、一向に相手の感情が収まらないので私に相談してきた。
そこで弁護士名で「根拠のない主張をされるのであれば、訴訟をする」と通告したら一気に終息した。親子は「あれはいったい何だったのだろうか」と不思議な思いであった。