ゼロからなにかを生み出すアーティストの思考法

私が以前勤めていたベネッセでも、直島でのアートプロジェクト以外にも岡山本社や東京本部に多くの現代アートを展示していて、普段から社員が現代アートに接することができる環境をつくっていました。展示替えをしてオフィスのイメージを大胆に変化させていたのです。

一回に100点を超える美術館のような展示替えをして、社員に驚かれたこともあります。担当していた私本人が言うのですから間違いありません。これらはあくまで社員教育の一環ですが、今後は企業のトップにもアート的発想が求められる時代がくるでしょう。

経営理念の刷新や新たなビジョンの策定の場面も想定されます。そうした部分にこそアート的な発想によるパラダイムシフトが必要となるからです。

単なる「改善」ではなく、既存のものとはまったく異なる発想を行うときに求められるのが、ゼロからなにかを生み出すアーティストの思考法なのです。

アーティストの思考法というとハードルが高いように感じるかもしれませんが、日常でアートに触れる機会を増やしていくだけでも身についてくるものです。

アートに触れることで、自分自身が変わっていく

最近はビジネス系のメディアで「アート」について語る記事が増えています。教養として美術史を学んだり、美術品の鑑賞法を解説する講座に通ったりと、アートに注目するビジネスパーソンは、確実に増えているようです。

秋元雄史『アート思考』(プレジデント社)

ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、アートとビジネスは、実利的に直結するものではないということです。得た知識をすぐに自分の仕事の成果につなげようとする発想は、アートからはほど遠い考え方です。

アートが示唆するものは、ある種の哲学のようなものであり、安直なハウツーに関するたぐいのものではありません。作品の解説にしても、評論家により解釈は実に様々です。解説者によって主張がかなり異なるような分野も珍しいと思われます。

アートは、視点や生き方など、包括的に私たちに影響をもたらすものなので、それを体系化したり言語化したりするのは、決してたやすいことではありません。

それらを表面的に捉え企画書に採り入れようとしても、コンセプトの上っ面をなぞるだけの中身がないものになってしまいがちです。

確かに作品の鑑賞を通して、アートが歩んできた破壊と創造の歴史を知ることで、様々な気づきもあるでしょう。

しかし、アートに触れることにより、自分自身が変わっていくような体験は、もしかすると5年後、10年後にストックされてきた知識が、ふと何かと結びつくことでようやく実感できるレベルなのかもしれないのです。

アートと接して得られる効果は、いわばあなたという人間の中に澱のようにたまっていき思考や人格に深く影響を与えるものです。それは、即効性こそないものの、あなたを確実に人間的な成長へと導くでしょう。

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