数学、工学、アートに詳しい複合的な人材の価値

実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っています。

例えば「アートとは、ゼロから価値を生み出す創造的活動であり、ビジョンと、それを実現させるための内なる情熱が必要」なものですが、この「アート」を「アントレプレナーシップ」に置き換えてみましょう。

すると「アントレプレナーシップとは、ゼロから価値を生み出す創造的活動であり、ビジョンと、それを実現させるための内なる情熱が必要」となります。ビジネスに関わっている人にとってもまったく違和感はないでしょう。先に挙げた世界のイノベーターたちは、ビジネスの世界で成功を収めたアーティストでもあるのです。

アーティストが作品を創作するときは、常にゼロベースでものを考えますが、ビジネスの世界においても、既成概念にとらわれることなくゼロから創造してきた人々がいました。それが先ほどのスティーブ・ジョブズであり、ジョー・ゲビア、ニック・ウッドマンであり、ジム・マッケルビーだったのです。

この社会に新たな価値をもたらし、社会に影響を与えてきた人々は、数学や工学からアートまで、横断的な知識を身につけていました。

今後そうした複合的な人材は、ますます多方面で必要となってくるはずです。

ウォールアートで埋め尽くされたフェイスブック本社

アートとビジネスの関連性が知られるようになり、日本企業の中にも、組織にアートを採り入れようとする動きが出てきています。

化粧品会社のポーラは、2016年から、新入社員向け研修で名画鑑賞を行うようになり、全日本空輸でも社員を対象に行ってきたグローバル教養力を習得するためのセミナーに2017年度から、西洋美術の鑑賞法を加えています。

海外では、フェイスブックの本社がウォールアートで埋め尽くされ、世界各国のオフィスにアートが飾られていることは、あまりに有名です。そのことについてフェイスブックは、「プロダクトやコミュニティは常に成長している=完成されておらず、発展途上であるのと同じように、オフィスも制作過程にあるアート作品のように感じられるべきだ」という同社CEOマーク・ザッカーバーグの思いが込められている、と説明しています。

実際にザッカーバーグのコレクションは、アーティストによって表現方法は様々ですが、どれも創造力が掻き立てられるものばかりです。

マイクロソフトも企業コレクションを持ち、社内に絵画を展示することが生産力向上につながると公表しています。

また日本でもマネックスグループが、10年以上前から「Art in the office(アート・イン・ザ・オフィス)」と名付けて、公募で選ばれたアーティストの作品を一年間展示するプログラムを続けています。