トランプに瓜二つ ある私立大学の学長がしたこと

某私立大学の学長は、名門国立大学の教授を定年退官した後、この大学の学長に就任したのだが、専門がドイツ哲学だったので、就任直後にドイツ語の哲学書を買うよう要求し、購入リストを一緒に連れてきた弟子に作成させた。

しかし、この大学は毎年定員割れしていて、図書購入の予算が少なかったので、図書館の責任者は、学長から渡された購入リストに記載されていたドイツ語の哲学書をすべて購入するわけにはいかない旨を伝え、「うちの大学は、中学生レベルの英語の本も満足に読めない学生さんばかりなので、ドイツ語の本を読める学生さんはほとんどいないと思います」と理由を説明した。

写真=iStock.com/ChrisGorgio

すると、学長は「何を抜かすか!」と激怒し、「私がこの大学の学長になったからには、東大や京大に匹敵するほどの名門大学にするつもりだ。その一環として、戦前の旧制高校の教養教育を復活させたいと思っている。そのためにも、ドイツ語の哲学書は必要なんだ!」と怒鳴った。そして、事務長を呼びつけ、図書館の責任者を庶務課に異動させた。

図書館の責任者の対応は至極まっとうだと私は思う。名門国立大学のように図書購入の予算が潤沢なわけではないので、ドイツ語の哲学書の購入の優先順位が、多くの学生にとって必要な入門書や参考書などよりも低くなるのは当然だ。

▼「ちゃぶ台返し」は日常茶飯事 結局、解任された学長

もっとも、それが受け入れられなかったからこそ激怒したのだろうが、学長にとって何よりも受け入れがたかったのは、この大学のレベルの低さである。偏差値が50に届かないことが、かつて名門国立大学の教授だった学長には受け入れられなかったようで、あの手この手で偏差値を上げようとした。入試システムも頻回に変えたのだが、そのたびに、委員会や教授会で一度決まったことを学長がひっくり返す「ちゃぶ台返し」が日常茶飯事だった。

しかし、偏差値がそう簡単に上がるはずもなく、業を煮やした学長は、大手予備校に電話して、「おたくがうちの大学に低い偏差値しかつけないのは、営業妨害だ。そのせいで、うちの受験生が減っている」と文句を言ったらしい。

大手予備校を怒らせたら、受験指導の際にこの大学を紹介してもらえなくなる恐れもあるのだが、そういう可能性には想像が及ばなかったようだ。案の定、受験生は減り続けた。そういう現実を受け入れられなかったのか、学長は定員割れの責任を教職員のせいにして、「○○はバカで単純」「この大学はバカばかり」などと暴言を吐いた。

学長の暴言と「ちゃぶ台返し」で教職員が疲れ果てたので、一部の教授陣が理事長に「学長は朝令暮改の連続で、みんな振り回されて、クタクタです」と直訴した。

その結果、学長は理事会で解任されたのだが、これは、学長よりも強い権力を持つ理事長がいたからこそできたことだ。アメリカには、トランプ氏よりも強い権力を持つ人間はいない。世界中を見回しても、そんな人間はいないので、トランプ氏は無自覚のまま大統領の座に居座るのではないだろうか。

(写真=iStock.com)
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