一見するとフレンドリーで懐の深い「いい上司」。しかし実は、ライバルとおぼしき存在に嫉妬し、たびたび攻撃をしかける「メラメラ上司」であるケースは少なくない。「有能な部下は早めに潰す」「激励や祝福の言葉を送りながら、敵意や怒りも同時に抱く」「前任者をディスって、優位性を誇示」……。周囲を混乱させ、身動きを封じる男性上司の複雑怪奇な振る舞いを、精神科医の片田珠美氏が分析する――。

「会議では自由に発言して」を真に受けてはいけない

男同士のいがみ合いは、どんな会社にもある。ただ、それを表沙汰にすると、「協調性がない」「空気が読めない」などと非難されかねない。ときには「職場不適応」の烙印を押されかねない。だから、ほとんどの会社員は、いがみ合いなどないかのように装いつつ、できるだけ波風を立てないようにする。

たとえば、20代の会社員の男性Aさんは、初めて出席した企画会議で、50代の男性部長から「自由に発言しなさい。自由闊達な議論こそが会社の発展につながる」と言われ、これを真に受けて、仕事の分担に対する不満やプロジェクトの古くささなどを率直に述べた。すると、部長の機嫌が悪くなり、それ以降きつく当たられるようになったという。

後でAさんが先輩に理由を尋ねたところ、この部長は、やたらと会議を開きたがり、終了時間を気にせず自分の感覚でダラダラとしゃべるうえ、自分の提案に対して部下が少しでも批判したり、反対意見を述べたりすると、とたんに機嫌が悪くなることがわかった。そのうえ感情的になって攻撃するため、部下は賛成するしかないらしい。結局、会議は部長の提案や意見を追認するだけの場になっていて、いわばセレモニーにすぎないわけである。

▼自分の存在を脅かす存在には徹底的に攻撃する

もっとも、賛成した場合でも困ったことになるようだ。部長の提案を実行して、うまくいかなかったら、部長は担当役員に「会議で、○○という部下が強引に推し進めたんです。部下の戦略ミスです。私は『大丈夫か?』と疑問を投げかけたんですが……」などと言い訳して、部下に責任転嫁するからだ。

先輩も責任を押しつけられたことがあり、「部長が提案したんじゃないですか。僕らは賛成するしかなかったから、そうしただけなのに、こっちの責任にされたら困ります」と言い返したかったが、形だけにせよ、賛成したのは事実なので、何も言えなかったという。

この部長が部下に責任転嫁するのは、もちろん自己保身のためだろう。現在の地位や収入を失いたくないからこそ、部下に平気で責任を押しつけるのだ。

うがった見方をすれば、部長は部下に共同責任を負わせるために、全員が賛成するように仕向けるのだともいえる。そのために、批判や反対意見に過剰反応し、あえて感情的になって攻撃するのかもしれない。