『ビジョナリーカンパニー』の著者ジム・コリンズは、偉大な経営者には2つの特徴があると書いている。1点目は「驚くほど謙虚で地味である」、2点目は「勝利を確信する不屈の意志をもつ」。コリンズの指摘の通り、いま外資系企業では「傲慢なエリート」が隅に追いやられ、「謙虚な日本人」が登用されつつある。世界に通じる謙虚さとはどんなものか。新卒以来、一貫して外資系企業で働き、3社で23年以上も社長を任された鳥居正男氏の著書『いばる上司はいずれ終わる』(プレジデント社)より、その「戦略」を紹介しよう。

グローバルな環境で求められるのは謙虚さ

来社されたお客さまとの面談を終えると、私はできる限りエレベーターに同乗し、エントランスまでご一緒します。お客さまをお見送りするためです。ビジネスの話が終われば、その場の雰囲気はやわらぎます。エレベーターに場所が移ればなおさらです。仕事上の関係を離れて、プライベートなことも話しやすくなります。

『いばる上司はいずれ終わる』(鳥居正男著・プレジデント社)

私は、ビジネスでも、プライベートでも、態度を変えないようにしています。態度を使い分けられるほど器用でもありません。そのとき心がけているのは、礼を尽くすこと、そしてどんなときにも謙虚であることです。わざわざ来社いただいたことに対して、感謝の気持ちを示す。部下や秘書に任せてしまうのと、私が感謝の気持ちを込めてお見送りするのでは、お客さまの受けとめかたは大きく違うはずです。お見送りは謙虚に礼を尽くすことの一例かもしれません。

ビジネスの関係では、あえて高圧的な態度をとる人もいるようです。そうした態度は、ビジネスでは有利になるのかもしれませんが、お見送りでの空気は重苦しくなります。相手にも「形式だけの見送りなら結構です」と思われてしまうでしょう。

近年の日本社会は「自分さえよければいい」という風潮が強くなり、他者に対して無関心な人が増えている気がします。しかし、それはもったいないことです。感謝の気持ちを込めて、お客さまをお見送りする。そうした経営者の姿勢は、社員たちに伝わり、結果として企業の風土となります。いい風土をもった企業では、いい人材が育ち、いい成果が生まれます。

一方、「自分さえよければいい」という風土の企業は成功しません。傲慢な人や企業は、どこかで周囲に不満や不安を与え、いつか行き詰まるでしょう。言い換えれば、ビジネスの現場で厳しい競争を強いられるからこそ、人も、企業も、謙虚であることが求められる。グローバルな環境で求められるのは、傲慢さではなく、謙虚さなのです。