相続は法制度を存分に活用する
「遺言」は、自分が築いてきた財産の死後の帰属などをあらかじめ決めておく、遺言者の意思表示である。遺言にはさまざまな種類があるが、作成するなら公文書として安全性の高い「公正証書遺言」がよいだろう。公正証書遺言は、公証人(裁判官等の経験を持つ法律実務の専門家)が遺言者の意思を確認し、それに基づいて公証人が作成するものである。費用はかかるが、専門家がつくるため無効になる可能性が少なく、公証役場に保管されるため偽造や変造、紛失の心配がない。ただし、遺言を実行した結果の税務的なアドバイスまで求めるならば、税理士への事前相談も必要だろう。
遺言は、遺言者の死後の遺産分割に対して強力に作用するが、本人の判断能力が衰え、亡くなるまでの生前の財産管理は、規定することができないデメリットがある。また、いかに遺言があっても、相続人全員が合意した場合には、原則として、遺言と異なる遺産分割が可能となることにも留意しておくべきである。
「成年後見制度」とは、認知症などによって意思能力が衰えた場合に、本人に代わって、財産の管理や契約等の法律行為を行う者を定め、本人を支援する制度である。これによって、法律行為の継続が可能となり、生活の利便維持が期待できる。
成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」がある。法定後見は、本人の意思能力がすでに不十分になっている場合に、家庭裁判所が成年後見人等を選任するもので、2015年では、後見人等のうち、司法書士、弁護士などの職業後見人が7割を占める(「成年後見関係事件の概況平成27年1月~12月」最高裁判所事務総局家庭局)。法定後見は、「本人の身上監護を通じた人権保護」を趣旨とする成年後見制度の方針が厳密に適用されるため、「被後見人(本人)名義の土地を担保にローンを組み、土地に建っているアパートを建て替える」など、「被後見人の財産を積極的に運用する」ことは原則として認められない。
一方、任意後見は、公正証書による契約により、本人が元気なうちに後見人となる者を自ら選任しておくもので、将来、本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てることによって、あらかじめ定められた者が任意後見人となり、後見開始となる。法定後見に比べ、比較的、自由な内容を契約に組めることに特徴がある。ところで、後見人による財産の使い込みなどの不正が、2015年は521件(被害総額29億7000万円)と社会問題となっている(最高裁判所調査)。後見制度を利用する場合、「本人が信頼のおける者」を指定できる、任意後見を選択することが得策だろう。その際は、認知症ではないものの、病気で動けない、足腰が不自由といった状態でも、本人の法律行為が継続できるよう、通常の「委任契約」も締結するのが望ましいといえる。