「親が70歳」になったら相続準備すべき理由
「うちの親は元気。相続のことを考えるのはまだ先でいい」――。
多くの人がそう思うが、果たしてそうだろうか。相続対策にはリミットが存在する。それは「被相続人となる者が『認知症』になる」までだ。そのような状態になり、意思能力がないと判断されると、「金融機関の預貯金の引き出し、解約」「不動産の建築・売却契約」「賃貸借契約」「生命保険への加入」といった法律行為全般ができなくなり、相続対策に重大な支障が生じる。
厚生労働省によれば、健康上、問題ない状態で日常生活を送れるとされる健康寿命は、男性が71.19歳、女性が74.21歳(いずれも2013年)。つまり、少なくとも親が70歳を過ぎた段階で、認知症や介護に対する危機感を持つべきである。実際、2015年の65歳以上の認知症患者数は462万人、65歳以上の高齢者に占める割合は15.03%と推計され、2030年には744万人、20.19%まで増えることが予想されている。また、2014年の65歳以上の要介護等認定者数は591万人となっている(「平成26年度介護保険事業状況報告(年報)」厚生労働省)。
一般に生前に行う相続対策には、次の3つがある。1つ目は、将来に予想される相続税の額を、合理的に抑制するための「節税対策」。2つ目は、その相続税などのコストをまかなう準備としての「納税資金対策」。3つ目が、遺産分割で、残された相続人たちが争うことを予防するための「遺産分割対策」である。もっとも重要なのは「遺産分割対策」であり、「納税資金対策」「節税対策」がそれに続くものといえる。
こうした対策を実行するためのスキームとして、「遺言」「成年後見制度」「民事信託」の3つを考えてみたい。