音信不通になった兄家族

そもそも、話し合おうにも家族や親戚の間での交流が長く絶たれている人もいる。千葉県在住の公務員・酒井昌也さん(仮名・55歳)も親戚との関係に悩んだ一人だ。

酒井さんは4人兄妹の次男。5歳年上の兄と、下に2人の妹がいる。ただ、兄は8年前、50歳の若さで急性のすい臓がんで亡くなった。酒井さんは事情をこう語る。

「もともと10年前に父が亡くなり、認知症の母の介護のやり方について揉めたことで、兄の家族とは疎遠になっていました。兄は自分の家で母の面倒を見ると譲らなかったのですが、兄嫁はあまり介護に協力的ではなかった。嫁という立場の難しさはあるのでしょうが、母との関係はだんだん悪化し、ケンカも絶えなくなった。兄が病気になったのをキッカケに、無理を言って、母親を福祉施設に移しました。兄の葬式以来、兄一家と話したことはありません」

酒井さんの心配は、現在も介護施設に暮らす母の体調が最近すぐれないということ。母も今年84歳。

もし亡くなったときを考えると、遺産相続の問題が出てくる。認知症患者が遺言書を書いても効力が認められるケースは稀だ。酒井さんのケースでは、残された家族で遺産分割協議をすることになる。

「亡くなった兄には、娘が2人いるんです。姪たちは母と同居したとき、それなりに仲良くしていたのですが、いまではまったく交流がない。私は連絡先さえも知りません。しかし、彼女たちにも『代襲相続人』として相続の権利があると知り、どうしようかと……」(酒井さん)

代襲相続とは、亡くなった人の子供に相続権があるが、その子供がすでに亡くなっていて孫が存在する場合、その孫に相続権があることを意味する。つまり、酒井さんの姪2人も母の遺産の相続人ということだ。