弟がビジネスライクになった理由

藤井涼子さん(仮名・60歳)は、現在3歳年下の弟との関係に悩んでいる。もともとは、どこにでもいる仲のいい姉弟だった。だんだんと疎遠に、そして険悪になってしまった原因は、藤井さん一家をとりまく環境の変化だった。

7年前、藤井さんの父親が82歳で他界。遺言書を残さなかったため、姉弟で相談して遺産分割協議書を作成した。今年87歳になる母親は認知症を患っており、藤井さんは父の生前から同居して母の介護を行っていた。母親の生活を守るためにも東京郊外の実家は母親名義にするなど、遺産の分割協議には姉弟で納得したはずだったが、いつしか行き違いが始まった。藤井さんが嘆く。

「弟が実家の通帳を持ちだして返してくれないんです。私は母の任意後見人になる契約をしていたのですが、まだ後見手続は開始していなかったので代理人として返すよう頼みました。すると弟は弁護士を立て、今になって母の認知症を主張して自分が法定後見人になると言い出したんです」

任意後見人は判断能力がある本人が、自らの意志で選んで契約した後見人。藤井さんは、母親から後見を依頼されていた。対して、法定後見人とは、本人の判断能力が不十分になった後に家庭裁判所に申し立てることで決まる、法律の規定による後見人だ。藤井さん姉弟の間で、「後見人合戦」が始まってしまったのだ。

藤井さんは弟が法定後見人になるのはおかしいと家庭裁判所に異議を申し立て、姉弟の争いは法廷にその場を移すことになった。さらに藤井さんを苛立たせるのが、弟の連絡がビジネスライクなことだ。

「やりとりがすべて事務的で、肝心のところはすべて弁護士任せ。血のつながりがある家族とは思えません。弟はもともとそんな冷たいタイプではないんですが……。弟嫁が口うるさい人なので、法定後見人のことも唆されて、それに従っているんでしょう」(藤井さん)