「絆」から「ソーシャル・ディスタンス」に大変化

――前編では、五木さんがコロナ禍の影響で、半世紀以上続けてた夜型から朝型に変わったことから、時代の大転換を促すような他力の風が吹いているというお話をうかがいました。今回は、これからの人間関係や心のありようについてお聞きしていきたいと思います。

コロナの影響で、リモートワークやリモート会議がかなり普及するようになりました。また、少しずつ経済活動が戻ってきたとはいえ、飲食店の多くは夜は早めに締まっています。そうやって人はなかなか移動しなくなった。はたしてそういう時代に、人と人との関係はどのように変わっていくでしょうか。

作家 五木寛之氏
撮影=尾藤能暢
作家 五木寛之氏

【五木】東日本大震災の後、さかんに言われたのが「きずな」でしたよね。人間の絆を取り戻そう。被災地でみんなが輪を作って手をつなぎ、「故郷」を歌うシーンがテレビのドキュメンタリーで流れていた。このシーンが象徴するように、ついこの間までは絆と言って、みんな寄り添って、腕を組み、身体を寄せ合って生きていこうということが力説されていたのに、今やもうソーシャル・ディスタンスです。これも、ものすごく大きな変化ですね。

僕は『孤独のすすめ』という本を書いたときに、「Together and Alone」という言葉を引いたんですね。これは、カラオケやツアーに行く、あるいは市民運動に参加するというふうに、いろいろな形でみんなと一緒にいながら、個人でいることを守るという考え方です。『論語』にある「和して同ぜず」ということですね。

集団行動が「連帯の証」となる時代は終わった

ところがコロナ禍ではこれが逆転して、「Alone and Together」になりました。つまり、みんなステイホームで孤立しているけども、ネットで交流してなんとか連帯を維持しようとする。昔はみんなと一緒だけど独りだったのが、いまは「一人でいるけど独りじゃない」となっているわけです。

夜の街が元気だった頃は、「口角泡を飛ばして」というように、お互いに胸ぐらをつかみ合って議論し合うこともありました。僕は昔、渋谷でジァン・ジァンというホールで「論楽会」という催しをやっていたんです。詩人、俳優、学者、作家などさまざまなジャンルの人を読んで、音楽や議論、講演、パフォーマンスを一緒くたにやる。これは午前0時からスタートして、朝の始発電車の時間に打ち上げをするんです。

寂しい気はするけれど、そういうことができる時代はもう終わったということですよね。これからはフィジカルな密着ではなく、内省的な、精神的な共感を共有し合う連帯が主流になっていくのでしょう。昔はデモンストレーションをしたり、一緒にシュプレヒコールを上げたり、集団で行動するのが連帯の証でした。これからは個々の人間が孤立しながら連帯していくという時代に入っていくんだろうと思います。