退職後、資産はどのように取り崩していくのがいいのか。フィンウェル研究所所長の野尻哲史さんは「定額の引き出しにはリスクがある。年間の必要引出額と運用資産額から想定した引き出し率を意識するといい」という――。

※本稿は、野尻哲史『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

夫が通帳を確認し、妻が電卓を使用している
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退職後の資金はこうして引き出す

資産の引き出し方法について提案するようになって既に15年近く経ちました。

最初の頃、定額の引き出しの抱える収益率配列のリスク注)について話をしても、なかなか腹落ちしてもらえない感じでした。その後、それを克服する方法として「定率引き出し」という言葉を使って、「定額引き出し」との対比をするようにして少し浸透してきました。

最近では、定率引き出しの代わりに、「率」を意識した引き出しという表現を使うことが多くなりました。「定率引き出し」の課題として、引き出し続けるなかで残高が減っていくと、定率での引出額は次第に少なくなってしまうというご批判をいただくようになったためです。

「定額引き出し」のリスクが理解され、さらに「定率引き出し」の課題も議論されるようになったことは、資産の取り崩しが資産形成と同様にしっかりと向き合わなければならない考え方だと徐々に理解されてきた証拠ではないかと喜んでいます。

引出率を常に一定とする「定率引き出し」とは異なる、「率」を意識した引き出し方法として、例えば年齢、年代などによって引出率を変化させる引き出し方法も提案しています。

例えば、65〜69歳は3.5%、70〜74歳は4.0%、75〜79歳は4.5%といった具合で、これはその年代の資産額が徐々に減っていくことを勘案して、引出額の安定を図るアイデアです。

3000万円で引出率3.5%なら年間105万円の引き出し、2500万円になったときに3.5%のままなら87.5万円になりますが、4.0%なら100万円ですから引出額を安定させるようにコントロールできます。

引き出し率を決める3つのポイント

最近はさらに一歩進んで引出率はどれくらいにすべきかと聞かれることが多くなりました。

それを決めるためには3つのポイントが重要だと考えています。「運用資産の規模」、必要とする「年間引出額」、そして許容できる「運用リスク」の3点です。

引出率は、年間の「必要引出額」と「運用資産額」から想定します。

「必要引出額」は、例えば年金以外に月10万円が必要だとすれば年間120万円、15万円必要なら年間180万円と計算できます。

そして、「運用資産額」が3000万円であれば、年間引出額が120万円の場合、引出率は4%、年間引出額が180万円なら引出率は6%となります。しかし運用する資産が2000万円であれば、120万円は6%、180万円は9%の引出率になります。これが議論のスタートラインです。

注)「収益率配列のリスク」とは収益率の並び方が資産残高に影響するという考え方。運用しながら引き出す期間の「前半に収益率が相対的に低い時期が偏ると、定額引き出しの場合、想定以上に運用残高が既存することがある」という、資産残高に与えるリスクのことをいう。