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発売前日の10月3日夕刻、酒巻さんの姿は東京都内の大型スーパーの広々した酒売り場にあった。

新商品の発売に合わせてメーカーの担当者が小売店の店頭に商品を積み上げ、販促ツールを飾りつける慣習が業界にはある。この日、酒巻さんは担当の営業マン2人とともに、スーパーの店頭で2時間ほど売り場づくりに汗を流した。

そこへふと近づいてきたのは、子供を連れた女性である。専業主婦だろうか。

「何かしら?」

商品に手を伸ばして、ノンアルコールのカクテルであることを確認すると、女性はにわかに顔を輝かせた。そしてその缶を買い物カゴに入れたのである。

その後も続々と客がやってきた。主婦や会社帰りらしい30代女性が積み上げたばかりの商品を買っていった。

「想定したとおりの方が興味を持ってくれたので、手ごたえを感じました。鳥肌が立つほどうれしかったですね」

酒巻さんは笑みを浮かべる。心のなかで小さくガッツポーズをしたという。だが、すぐに冷静になれるのが酒巻さんだ。

「目の前で何本か売れたのは事実ですが、それはあくまでも『点』の情報です。翌日以降、全国でどれだけの人が買ってくださるのかを正確なデータで見なければいけません」

酒巻さんはこう気を引き締め、いったん会社に立ち寄ってから午後10時過ぎに帰宅した。少しお酒を飲みたい気分だった。しかし――。

「翌朝早いので、ちょっとためらいました。ふと思いついたのが『のんある気分を飲もう!』ということです。いろいろな人に聞きましたけれど、そういうニーズも多いんですよ(笑)」

お気に入りの「ソルティドッグテイスト」を開け、ひとり乾杯したという。