マーケティングのスキルが仕事で求められるようになってきた。『マーケティングの新しい地図』(KADOKAWA)を書いた、経営学者の鳥山正博さんは「万人必須のスキルと言っていい。ただし、マーケティング用語は横文字が多すぎる。わかったつもりになってしまい、大切なことを見失ってしまう恐れがある」という――。
ディスカッション中の2人のビジネスマンの手のクローズアップ
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マーケティングは“万人必須のスキル”になった

マスマーケティングの時代にあっては、大学や大学院でマーケティングを学んでも活かすことができる職場はB2Cの大手企業、それも宣伝部や商品企画部や販促企画部といったマーケティング関連部門、あるいは広告代理店に限られていた。主な施策がテレビCMである以上、テレビCMを打たない中堅企業やB2B企業には縁がなかったのである。

ところが現在、B2B企業も営業一本槍からマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスという体制に変わり、どんな小さな企業もAmazonを使えば日本中いや世界中に商品を売ることができるようになり、グーグルなどのリスティング広告を行うようになった。個人ですらSNSのフォロワー数を増やすためにマーケティングを行うようになり、マーケティングは万人必須のスキルとなったのである。

マーケティングとは、提供したいものを提供するのではなく相手に求められるものを提供すること、と考えると非常に単純だが、その割には世界的な教科書『マーケティングマネジメント』(コトラー、ケラー、チェルネフ)は何と842ページ(16版邦訳)と分厚く、時代が下ると次々と新しい本が現れ、新しい論者・新しいコンセプトが登場し、一世を風靡する。なにゆえそうなるのであろうか。

横文字が多すぎる

一言で言えば、マーケティングは極めて多次元・多要素の活動であり、その次元や要素は時代が下るにつれどんどん増え、組み合わせは増える一方であるということだ。技術進歩が新しい媒体や販路を生み、新しい概念が必要になる。また、モノにより場合により様々なバリエーションがある中で、抽象化・単純化することが必要だが、そのやり方は無限にある。

しかも、最近の市場や企業活動の変化は一段と激しさを増しており、マーケティング用語は次々と現れては消費されていく。ちなみに以下のワードの意味をご存じだろうか。

GEM(Generative Engagement Marketing)、NEM(Narrative Engagement Marketing)、Intracontextuality TheoryQuantum Consumer Dynamics

何となく分かる、聞いたことはあるが正確な概念は理解していない、という用語が多かったのではないか。

実は、これらは筆者が今生み出したデタラメなマーケティング用語であって、どれひとつとして存在しない概念である。にもかかわらず、何となく分かった気がした、あるいは、これらのワードを使って顧客を煙に巻くマーケターが想像できてしまった――まさにこの点にマーケティング業界の問題があるのだ。横文字が多すぎである。

さらに、昔から言われていたことと概ね同じことを違うキーワードや語り口で語り、そのバズワードがヒットすると新たな流行が生まれるわけだが、マーケティング論者はその流行で本が売れさえすればそれでよいという問題がある。