買収したのは福岡の地方スーパー

わが国の人口減少・少子高齢化の加速で、小売業界を取り巻く環境は大きく変化している。モノを買う人が減っていることに加えて、高齢化の進展で年金生活者の割合が増えているため、どうしても売り上げが増えにくくなっている。小売業界とすると、このままでは生き残っていくのが難しい状況だ。

そうした環境変化に対応して、わが国の小売業界で再編の動きが顕在化している。それを象徴するのが、セブン&アイ・ホールディングスや西友をめぐる案件といえるだろう。特に、米国のウォルマート傘下で、エブリデイ・ロープライス(毎日安売り)を掲げて顧客をつかんできた西友の買収案件は注目される。

3月5日、福岡市東区に本社を構える流通小売企業、“トライアルホールディングス(トライアル)”は西友を買収すると発表した。トライアルはリサイクルショップとして創業した。現在の同社トップは、かなり早い段階からデジタル化の加速を見込み、IT先端技術の開発に取り組んだ。同社は先端分野のソフトウェアを流通小売ビジネスと結合した。そうすることでトライアルは、より多くの消費者の欲求を探求し、小売りビジネスの成長を実現したと考えられる。

写真撮影に応じるトライアルホールディングス(HD)の亀田晃一社長(左から2人目)と西友の野村優執行役員(右から2人目)ら=2025年3月5日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
写真撮影に応じるトライアルホールディングス(HD)の亀田晃一社長(左から2人目)と西友の野村優執行役員(右から2人目)ら=2025年3月5日、東京都千代田区

スーパーでさえモノが売れない

規模の大小を問わず、買収戦略を重視する小売企業は増加傾向にある。その中でのトライアルによる西友買収は、わが国流通小売業界の再編を加速させるきっかけになるかもしれない。それは、私たち消費者にも大きな影響があるはずだ。

近年、西友にとどまらず、セブン&アイ傘下のイトーヨーカドーをはじめ、小売業界の収益状況は厳しい。その背景には、何といっても、わが国の人口減少と少子高齢化の加速がある。モノを買う人が減るため、売る側が苦しくなるのは当然かもしれない。それに加えて、資産バブル崩壊で、わが国の経済が長期の停滞に陥ったことが加わった。

1997年には金融システム不安による不良債権問題の深刻化で、経済全体でリストラを実行する企業は増えた。雇用が不安定化するとの懸念は高まった。それをきっかけに、わが国でデフレ経済(物価が持続的に下落する経済環境)が深刻化した。

人々はモノやサービスの値段はさらに下落すると思い、消費や投資を先送りした。その結果、小売業界の業績は悪化した。バブル期の急速な店舗増加といった過剰投資も裏目に出て、ダイエー、マイカル、長崎屋といった総合スーパー、百貨店大手のそごうは破綻した。