成り行きの上京でぼくは変われた

いまは、清澄白河の家で200体の呪物と暮らしています。

集めはじめた当初は、単に髪の毛が伸びる人形や、チャーミーのようにかわいがってくれた人に祟る物が、呪物だと感じていました。ただ海外にも足を運んで、呪物を集めるようになって、呪物に対する考えが変わりました。

呪術とは、人の願いです。呪術師が人の願いを物に込める。物に人の思いや魂が宿る。それこそが、呪物なんだな、と。

昔、ぼくにとって呪物は、怪談のいちエピソードに過ぎなかった。けれど、歴史も政治も勉強してこなかったぼくが、呪物を集めながらいままで意識もしなかった歴史や文化、そして人の営みを自然に理解できるようになりました。

たとえば、アフリカで起こった民族同士の対立だったり、東南アジアの人の死の悼み方だったり……。呪物を通して、そうした知識や、まだ見ぬ人の暮らしが自然に頭に入ってくると言えばいいか。世界中に呪術や呪物が存在するというのは、文化や人種を超えた普遍的な人間の営みなんだなと実感するようになったんです。

西アフリカの農耕先住民の人形「オラクル」。手が動くらしい。
撮影=株式会社インタニヤ
西アフリカの農耕先住民の人形「オラクル」。手が動くらしい。田中俊行『呪物蒐集録』(竹書房)より

やっぱり東京に来ていなければ、いまの自分はなかったでしょうね。上京したのは42歳で、いまも成り行きまかせですけど……。いくつになっても、環境によって、人って変わるんですかね。

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