人に「頼らせる力」で生き延びる
上京して、いまの家を契約するときにチビルマと怪談仲間の住倉カオスさんが付き添ってくれました。カオスさんが、契約書の職業欄に〈オカルトコレクター〉と書こうとしたぼくを止めて〈作家〉と書き直すように教えてくれました。不動産屋にしてみれば、〈オカルトコレクター〉って何? って話じゃないですか。それぐらい世間知らずな上に、はじめての一人暮らしでわからないことばかりだったんです。
ダブルブッキングや、遅刻ばかりするぼくを見かねた知り合いが、いまスケジュールの管理をしてくれています。彼がいなければ、今日もぼくはここに来れなかったかもしれません。
人に頼むって、なかなか難しいじゃないですか。でも、ぼくの場合は人に頼る力じゃなくて“頼らす力”でなんとか生き延びさせてもらっているのかも。
コロナ禍以降の令和の怪談ブームで、昔は月に1回あるどうかの怪談イベントが、いまは1日で2つも3つも開催されるようになりました。ぼくも、月に休めるのは2、3日くらい。
おかげで、収入は増えましたけど、お金が入ったらすぐに呪物を買うんで、貯金残高は実家暮らしの頃と変わらず常に6万円くらいです。呪物って、1体30万円とか、40万円しますからね。ただ収入が増えたと話すと“頼らす力”が弱まりそうな気がするから、本当はあんまり言いたくないんですけど(苦笑)。
東京に来て歩む道が間違いなく変わった
神戸の人たちも、神戸のコミュニティも好きでしたけど、東京に来て、自分の世界が新たにひとつ増えた。歩む道が間違いなく変わりました。
神戸時代に世話になった保険会社の偉い人も「すごいな君、ホッチキスやってたのに」と喜んでくれています。
家族には、ぼくがいま何をしているか直接話してはいません。ただ姉がスパイになって、ぼくのSNSをチェックして母に伝えているんです。母親は「あなたにはこれだけお金を使いました」とか「私がレンタルビデオの延滞料金1万円を払ったのを覚えていますか?」とか恨み節を言ってきます。
とはいえ、どうやら本当は喜んでくれているらしい。23年にぼくが書いた『神戸怪談』という本が神戸新聞で取り上げられました。父親は記事を切り抜いて取ってくれているそうですから。
これも姉伝いの話です。
母親と姉が神戸の本屋に『神戸怪談』を買いに行き、平積みされていた本を5冊買ってくれた。でも5冊ともぜんぶ怪談作家の宇津呂鹿太郎さんの『兵庫の怖い話』だったという。宇津呂さんも知り合いだし、面白い本だからいいですけど。
もう滅茶苦茶なんですよ。